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 世界史を貫き、世界大に展開し、世界を結び続けている産業は、そうざらにはない。その数
 少ない産業が海商あるいは海運である。世界海商史あるいは世界海運史は、「産業の世界
 史」として、その名を辱めないものである。それとほぼ同じ意味合いで、それぞれの国の海商あ
 るいは海運を「一国の産業史」として語りうる。 ヨーロッパにあっては、中世から近世にかけて、
 イタリア、スペイン・ポルトガル、オランダといった国々が逐次、登場し、それぞれが覇権海運国と
 して世界を席巻した。しかし、それらの国々は後発国に追い上げられ、次々と覇権海運国として
 の地位を譲り渡していった。そして、その後退は海運国としての地位さえ怪しくするものであっ
 た。
 そのなかにあって、イギリスはそれら先進海運国に後れを取ったものの、それらの挑戦者として
 登場し、ついに覇権海運国としての地位を揺るぎないものとした。自らも「七つの海」を支配した
 と言わしめたし、他の国々とは違って、最近に至るまで、覇権海運国としての地位を保持し続け
 てきた。
  そうした位置づけを持つイギリスの海運史は、一国の産業史としてばかりでなく、世界海運史
 の主要な側面を形作っていることに疑いはない。
 そうした観点から、ホープ著『新イギリス海運史』を読むとき、いささか躊躇せざるをえない。それ
 は、世界海運史におけるイギリス海運史の位置づけが、判然とは浮かび上がってこないことで
 ある。この問題点は、どういった事柄を論点として、海運史を記述するかが明白となっていないこ
 とにあるとみられる。 
  しかし、「まえがき」でみたように、著者は本書を歴史の研究書ではなく、あくまで概説書として
 いるので、それ以上のことを求めるのは無い物ねだりとなる。確かに、本書は400余の文献を
 渉猟し、多くの史実でもって歴史を語らせ、それから何を読みとるかは読者の仕事だといいた
 げな、碩学の書物である。そうだとすれば、解題などは、およそ無用の長物となろう。
  このeBookは、早い機会にフェーズ・アウトするつもりでいたが、『海上交易の世界史』「3・1・4
 イギリス、先発の蓄積を浸食して、覇権を築く」で取り上げなかったことが多いため、当面、イギ
 リス海運史の資料として掲載を続ける。
  なお、このeBookで取り上げたその範囲は、19世紀末まである。
(2003.02.02記、2008.09.30一部補正)


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