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▼簡単な解説▼
(1) 弁論の時期と構成
 この弁論は前341/32年頃に書かれたとされる。この弁論は、他とは違って、海上貸付に関す
 る訴訟を直接に扱ったものではない。さらに単なる金銭貸借でもなく、それをめぐる紛争後に
 起きた損害賠償請求の、しかも被告の弁論である。なお、[ ]のなかは、当該弾劾の節番号
 である。
  [1-12]においては、この弁論の事件の背景となった海上貸付が、再度の金銭貸借でもって
 清算され、そして後者が担保の売却により清算された経過が証言されている。[13-38]におい
 ては、海上貸付の清算に当たって発生した、原告の暴行事件に対する損害賠償と、この弁論
 の対象である、被告の保証人としての瑕疵(その内容は被告弁論のため不明)を責めた損害
 賠償について、被告が長々と抗弁する。
(2) 当事者
 この弁論の直接的な当事者のうち、原告は船主船長でビュザンティオン人のアパトゥーリオ
 スであるが、話者である被告の氏名は不詳である。被告の立場は海上交易人かつ海上貸付
 人であるが、アテナイ市民ではないらしい[4、5]。それ以外に、この原告を被告とする訴訟に
 おける原告は、同じビュザンティオン人で海上交易人とみられるパルメノーンであり、氏名不詳
 の話者と利害が一致している。
(3) 金銭の貸し借り
 この弁論に直接に関わる金銭の貸し借りはない。その背景となった海上貸付とその借り換え
 の額は40ムナであり、後者は原告がパルメノーンと銀行から、船と奴隷を売渡担保([8][注]参
 照)として借りたものであった。パルメノーンのアパトゥーリオスに対する賠償請求額は不明で
 あり、アパトゥーリオスの氏名不詳の話者に対する賠償請求額は10ムナである[22、24]。
(4) 紛争の内容
 まず、船主船長アパトゥーリオスは海上借受金40ムナを返済できず、同郷人パルメノーンとと
 もに氏名不詳の話者を訪れ、援助を求める[6]。パルメノーンから10ムナ、氏名不詳の話者が
 保証人となって銀行から30ムナを借り、船主船長アパトゥーリオスは借受金を清算する[7、8]。
  この新しい金銭貸借は、アパトゥーリオスが担保の船を持ち逃げしようとしたことでこじれ
 [9]、氏名不詳の話者とパルメノーンが担保を差し押さえ、担保額相当で売却して清算する
 [10、12]。それに当たって、パルメノーンは船主船長アパトゥーリオスから暴行を受けたとし
 て、損害賠償請求訴訟を起す[13]。
  その訴訟をめぐって調停が行われる。パルメノーンに不利な裁定が下るが、それをめぐって
 氏名不詳の話者が活躍したことを、「保証人」としてあるまじき振る舞いと逆恨みして、アパトゥ
 ーリオスが損害賠償請求訴訟を起したかにみえる[11]。
(5) いくつかの注目点
 海上貸付訴訟としての論点は特にないが、金銭貸借に当たって売渡担保が取り入れられて
 いたこと、中古船が担保額通りの40ムナで売買されたことなどが注目される。そして、大方の海
 上貸付訴訟は海難をためにして、借受金の返済を免れようとしていたが、ここではあからさま
 に担保の船の持ち逃げを図っていることは、この事件の悪質ぶりを示す。その一環として2つ
 の賠償請求訴訟が関わっている。

▼弁論本文▼
[1] その法律は、アテナイの皆さん、商人と船主に対する訴訟は彼らが市場において悪事を働
 いた場合、アテナイから他の港に向かうか、他の港からアテナイに向かうかどうかにかかわり
 なく、法務執政官(注)に提起できることになっています。その法律は、犯罪者に対する罰とし
 て、彼らに宣告された金額を支払うまで、収監されることになっています。それにより商人は誰
 も不正を働かないようになりました。
(注) 法務執政官[テスモテタイ[注]]とは[9人の執政官(アルコン)のうち筆頭、祭事、軍事担当の](エポニ
ューモスおよびパレシウス、ポレマルコス以外の)6人の執政官で構成され、まったく執政官がいないところで
起きた事件に限って、裁判する権限を与えられた組織である。
[注]アリストテレス[前384-322、哲学者・科学者]『アテナイの国制』59を参照のこと。
[2] しかし、[訴訟当事者と]契約関係のない事件で法廷に喚問された人々にも、異議申し立て
 する権利を与えていますが、誰であれ根拠のないあるいは悪意ある訴訟は持ち込まめませ
 ん。しかも、実害を受けた商人や船主とのあいだで起きた告訴に限定されています。海事訴訟
 の被告の多くが、この法律に基いていままでも異議申し立てを行い、あなた方の前に現れ、相
 手側から交易に関わりがあるという見せかけのもとで不当な告発を受け、根拠のない訴訟を
 起されてきたことを証明してきました。
 [3] 誰がこの輩と共謀して、私に対する訴訟をでっち上げているのか? それは私のあなた方に
 対する陳述が進むにつれて明らかになるでしょう。しかしながら、アパトゥーリオスは彼と私との
 あいだで結ばれていた契約がすべて解消あるいは履行され、また私が彼と結んでいる海上や
 陸上の事業に関する契約がまったくないにもかかわらず、私に対して誤った告発を行い、法律
 に違反して告訴しております。そこで、この訴訟は次に述べる法律に基いて無効であると、私
 は異議申し立てすることとなりました。

法律
[4] 私は、アパトゥーリオスがそれら法律に反して私を相手取って訴訟を起しており、その告発
 が誤りであることを多くの証拠を用いて、あなた方に示めそうと思います。私は、陪審員の皆さ
 ん、大変前からいまなお外国交易に従事し、しかもかなりのあいだ自ら危険を冒して海上に乗
 り出してきました。航海に出るのを止めて7年間しか経っていません。適度な資金を蓄えたの
 で、それを海外冒険事業への貸付金として運用するようになりました。
 [5] 私は、いろいろなところに出入りしていますし、あなた方の取引所でも時間を過ごしており、
 非常に多くの船乗りを知っています。また、長期間ビュザンティオンに滞在していたこともあっ
 て、ビュザンティオンから来る人々とは親密な間柄にあります。その輩が、同郷人でパルメノー
 ンという名前の、国外追放を受けたビュザンティオン人とともに、私たちの港に入って来たと
 き、私の立場はすでに書き記した通りです。
 [6] 原告とパルメノーンは、この取引所で私に近づいてきて、金の話を持ちかけてきました。そ
 こで起きていたことは、原告は自分の船に40ムナの借りがあり、債権者たちからその金の返済
 をしつこく迫られ、その期限が過ぎたとして船に乗り込まれ、占有されようとしているところでし
 た。彼が周章狼狽しているのをみて、パルメノーンは彼に10ムナを出すことに同意し、また原告
 は私に30ムナを援助してくれるように依頼してきました。債権者たちは船を確保するのに熱中す
 るあまり、取引所のなかで彼の名誉を貶め、彼が払える状態にもはやないとみなして船を差し
 押さえました。
 [7] 私は現金をすぐに用意できませんでした。そこで、銀行家のヘラクレイデースと知り合いで
 あったので、私を保証人として彼に金を貸すよう説得しました。しかし、30ムナを手にしたところ
 で、パルメノーンが突然、原告と仲たがいしはじめました。彼は、すでに同意していた10ムナのう
 ち3ムナを与えていましたが、それに加え手渡すと約束とした額になるまで残りの金を差し出すよ
 う強いられていました。
 [8] しかし、彼は自身の名前で貸付けしたくないといい、私に無難に収まるよう取りはからってく
 れと求めてきました。そこで、私はパルメノーンからその7ムナを引き受け、さらに原告が彼から
 すでに受け取って債務となっていた3ムナも引き取ることにしました。それは、彼が私から受け取
 った10ムナと、私を保証人にして銀行家から借りた30ムナを返済する期日になれば、船と奴隷の
 売渡状を執行すること[注]を条件に行われました。
[注] 売渡担保とみられる。それは、借り手が貸し手に担保を売り渡す形式をとって、その代金のかたちで融
資を受ける形式をいう。一定の期間内に、元利に相当する金額を支払って、目的物を買い戻すことができ
る。

私の発言が真実であること証明するため、宣誓証言を聞いて下さい。
証言
[9] こうしたやり方で、ここにいるアパトゥーリオスは債権者たちから逃れることができました。
 その後、銀行が破綻してヘラクレイデースがしばらく雲隠れしたすきに、原告はアテナイから奴
 隷を連れ出し、船を港から移動させる計画を立てました。これが彼と私のあいだの最初の紛争
 の原因です。それを知ったパルメノーンは奴隷を捕まえ、船の出帆を防ぎました。その後、彼
 は私を呼びだし、顛末を伝えてきました。
 [10] それを彼から聞いたとき、この輩はその企みからみてまったく無礼で恥知らずと判断し、
 私は自分の銀行への保証をいかにして取りやめるか、また外国人(注)が私を通じて貸した金
 をいかにして失わないですませるかを検討するようになりました。その船に見張人を配置した
 後、私は銀行の引受け人たちに全容を知らせ、その外国人が船に10ムナの先取特権を持って
 いることを伝えた上で、彼らに担保[船]を引き渡しました。それに加え、担保不足が生じること
 を考慮して、それを奴隷の売上高でもって埋め合わせるため、彼らを差し押さえました。
(注) この外国人はもちろんパルメノーンである。
[11] このようにして、アパトゥーリオスの悪党ぶりがわかったので、その男から自分や外国人
 の利益を図るため、正しいことをしてきました。しかし、アパトゥーリオスはあたかも私の側に悪
 があり、わが方にはないかのように、私を告訴してきました。そして、私の銀行に対する保証は
 解除されていないのではないか、それならパルメノーンのために船や奴隷を押収して金を確保
 してやったり、また亡命者である男の利益のために彼の敵を作ったりすることはなかったので
 はないか、と問い合わせてきました。
 [12] 私は、その人が私を信頼してくれているあいだは、その人を見捨てようと思ったことはまっ
 たくありませんと答えました。彼は亡命者で不運な目にあい、原告によって不当に扱われてき
 たからです。私はあらゆる手を尽くしましたが、その男たちと抜き差しがたく、対立するようにな
 りました。その後、私はやっとのことで、その船を抵当として評価された額の40ムナで売ることが
 できたので、その金を確保することができました。それによって、30ムナが銀行に、10ムナがパル
 メノーンに払い戻されました。そして、多くの証人の面前で、私たちが金を貸すことで生じた束
 縛を取り消し、また私たちも互いの約束から解消、解放されました。それによって、原告も私と
 の関わりが一切なくなりました。それは私についても同じです。

私の言葉が真実であることを証明するため、宣誓証言を聞いて下さい。
証言
 [13] それ以後、私はその輩と、大小の商取引を行ったことはありません。しかし、パルメノーン
 はそこから持ち出されそうになった奴隷を差し押さえ、さらにシチリア向けの航海を阻止した
 際、彼から受けた暴行に対して損害賠償を訴えました。その訴訟を提起したとき、パルメノーン
 はアパトゥーリオスが訴状のいくつかに関与していると誓約しました。彼はその誓約に加え、供
 託金を設定しました。それは、神にかけた誓約でなかった場合、没収されることになります。

私の言葉が真実であることを証明するため、宣誓証言を聞いて下さい。
証言
 [14] 彼は、その誓約を確認しましたが、多くの人々が彼は偽証していると見抜いていることに
 気づき、宣誓式に現れませんでした。こうして、彼はこの訴訟で宣誓しないですませましたが、
 パルメノーンを法廷に呼び出すことになってしまいました。この2つの訴訟が提起されたとき、
 身近な人たちの忠告により、彼らは調停を進め、合意書を作成して、共通の調停人に解決を
 委ねることにしました。その調停人はポクリトウスといい、彼らの同郷人でした。そして、それぞ
 れがポクリトウスと同席する人物として、アパトゥーリオスはオイア区(注)のアリストクレス、パ
 ルメノーンは私を指名しました。
(注) オイア区はオイアネス部族のデーモスである。
[15] 彼らは次のことを文書で合意しました。われわれ3人が一致した場合は彼らはその決定に
 縛られる、そうでなく2人が決定した場合でも彼らはそれに服するものとするという、約束が取り
 決められました。こうした合意に従い、彼らはお互いがその履行を保証するため、アパトゥーリ
 オスはアリストクレス、パルメノーンはミュリヌス区(注)のアルキッポスを保証人として指名しま
 した。彼らは手始めとして、ポクリトウスに合意書を寄託しようとしましたが、当人は他の誰かに
 寄託せよと指示するので、彼らはアリストクレスに寄託しました。
(注) ミュリヌス区はパンディオニス部族のデーモスである。

私の言葉が真実であることを証明するため、宣誓証言を聞いて下さい。
証言
 [16] その合意書がアリストクレスに寄託され、また調停がポクリトウスに託されたことは、その
 事実を知る証人があなた方に証言した通りです。そこで、陪審員の皆さん、その後何が起きた
 かを私から聞き取るよう、あなた方に懇請します。このことから、この男、アパトゥーリオスが根
 拠のない悪意ある要求を、私にしていることをあなた方に明瞭に示すことになるからです。ポク
 リトウスと私が一致していることを見て取り、また彼に対して裁定を下そうとしているのを見定
 めると、調停をぶちこわすことを目指して、彼を支持する人と結託し、合意書の文言を無視す
 るようになりました。
 [17] さらに、彼はアリストクレスが彼の調停人だと言い張るようになり、またポクリトウスと私に
 は和解に役立つこと以外の権限は与えられていないと宣言するようになりました。この言葉に
 怒って、パルメノーンは合意書を取りまとめたアリストクレスに、文書をもてあそぶといった違反
 が起きた場合、その事実の証拠調べをするに及ばないと付け加えたのか、と追求しました。と
 いうのは、彼の奴隷の文面を書かせていたからです。
 [18] アリストクレスは自ら文書を作成すると約束しましたが、それらはいまなお訂正されていま
 せん。彼は私たちと約束した日に、ヘーファイストス神殿(注)で会うことになりましたが、彼の
 奴隷が彼を待っているあいだ寝むりこけ、書類をなくしてしまったと弁解しました。この陰謀を
 仕組んだのはペイライエウスから来た内科医のエリュキアスで、彼はアリストクレスの親友で
 す。この同じ男は、私と対立してもいないのに、私に対して訴訟を仕掛けてきました。
(注) ヘーファイストス神殿はかなり保存のよいドーリア式建物で、一般にテセウス神殿と呼ばれている。

いまここで、アリストクレスが書類をなくしたふりをしていることを証明するため、宣誓証言を聞
いて下さい。
証言
 [19] その後、調停は取り消され、合意書の文書も消えてなくなり、調停の権威に損なわれまし
 た。彼らは、これらの問題に関する別の文書を作成しようと懸命になっていますが、原告はアリ
 ストクレスにこだわっており、合意に至っていません。また、パルメノーンは第三者に依頼して、
 調停を振り出しに戻せと主張しています。そのため、新しい文書は作成されず、また元の文書
 もどこかに行ったままです。それを持ち逃げした男が、何らの恥じらいもなくやって来て、脳天
 気に、裁定を出すと表明しました。パルメノーンはその場に証人を立ち会わせ、アリストクレス
 が共同調停人にはからず、合意書の条文を無視して裁定を出すことを禁じました。

彼が彼に禁じたときに立ち会っていた人々の宣誓証言を聞いて下さい。
証言
[20] この後、パルメノーンに、陪審員の皆さん、恐ろしい不運が襲いました。彼は亡命者であ
 ったので、オプリニウム(注)で暮らしていました。ケロネソス半島[ダーダネス海峡のゲリポリ
 半島]で地震が起きたとき、彼の家が崩壊して妻と子供が死にました。その災害を聞くと、直ち
 に、彼はアテナイを船で出発しました。アリストクレスは、彼に対する裁定を共同調停人にはか
 らないで申し渡すことのないよう、証人の面前で懇願されていながら、パルメノーンが災害のた
 めにこの国からいなくなったすきに、彼に対する裁定を宣告したのです。
(注) [アナトリア半島の北西部、現在のトルコ、ビガ半島の古称である]トローアスにある町。
 [21] ポクリトウスと私は同じ文書に名を連ねてきましたが、私は裁定に加わることを拒否しまし
 た。その理由は、原告が彼の都合で私たちを調停人とみなさいとしたからです。しかし、アリス
 トクレスは、誰に権威があるかまったく議論せず、それでいながら誰かが決定を下すことを固く
 禁じておいて、裁定書を作成しました―それはあなた方やその他アテナイ市民の誰もが実行
 できるような代物でありません。
 [22] アパトゥーリオスとその調停人が文書の消失や裁定の発表に関与していたのです。それ
 にもかかわらず、彼らに不当に扱われてきたその男がアテナイに無事に戻って来てようやく、
 彼らから満足な結果を得られるというものでした。しかし、その後、アパトゥーリオスは何ら恥じ
 ることもなくやって来て、私を相手取って訴訟に持ち込もうとしています。それは、パルメノーン
 に対する裁定にかかった、なにがしかの費用を支払うよう求めたものでした。また、私の名前
 が保証人として文面に入っていると言い張るので、それを適切な方法で取り除かなければなら
 なくなりました。まず、パルメノーンのために保証人になったのは私ではなく、ミュリヌス区のア
 ルキッポスだったことを証明するため、証人を引っ張り出すことにしました。陪審員の皆さん、
 私は状況証拠でもって自分を弁護することにしました。
 [23] 何はともあれ、その請求に根拠がないことを証明するには、時間が証人になってくれると
 考えました。この輩とパルメノーンが調停のために作った合意書やアリストクレスの裁定は、2
 年前に作られたものです。なお、ボエドロミオンの月からムニキオンの月までのあいだ(注)、
 商人が自らの権利を確保して、遅滞なく、海に乗り出せるようにするため、毎月訴訟を提起で
 きるようになっています。そうしたことから、私が現実にパルメノーンの保証人になっていたとす
 れば、アパトゥーリオスは、裁定後、直ちに、補償金の積算をはじめなかったのですか?
(注) およそ[このアテナイの暦の]9月から4月までの期間は、海は閉じられており、また船は港に係留され
ていた。
[24] 彼は友情のせいで、私と対立するのは嫌だといっているそうだが、そうしたことはありえな
 いことです。そうではなく、彼がまったく薄情であるからこそ、彼がパルメノーンに支払うべき
 1000ドラクマ[10ムナ]を、私に支払えと強要してきたのです。彼がこの港から船を持ち出し、こっ
 そり立ち去って、銀行に支払うべきものをだまし取ろうとしたとき、それを阻止したのが私だっ
 たり、また私がパルメノーンの保証人になっていたならば、彼が補償金を2年後になるまで待っ
 て、やおら請求するといったことはありえず、直ちに手続きを始めていたはずです。
 [25] 彼は、何と、資金を十分準備していたのです。その後に私を訴えでたことは明らかです。
 そして、時をおかずに直ちに、海に向かいました! それでありながら、彼はすべての資産を失
 い、船を売ってしまったことで、苦境に陥っていたのです。そこで、私に対して直ちに訴訟する
 のを思いとどまるものが何かあったらしく、彼が昨年、町にいたときに、なぜ敢えて[訴訟]しな
 かったのか? そのとき、私は訴訟に持ち込むとか、さもなくば請求することもなかった。 彼に
 とっての本来的なやり方はとしては、パルメノーンに対する裁定が彼にとって有利なものであれ
 ば、あるいは私が彼の保証人になっていれば、私のもとに証人を引き連れて来るとか、補償金
 を請求するとか、それらを一昨年ではなくても、少なくとも昨年にすることが出来たはずです。さ
 らに、私が支払いを取るなら彼から金を取り立てるとか、またそれを取らないなら訴訟に持ち
 込むとが出来たはずです。
 [26] この種の補償金に関して、大方の人は訴訟に出る前に請求します。さて、この男が昨年
 あるいは一昨年、私に対して訴訟手続きをはじめたとき、あるいは彼がいま訴えている請求額
 に言及したとき、そこに立ち会った証人がはたしていたのでしょうか。

昨年、この法廷が開かれていたとき、彼が町にいたことを証明するため、宣誓証言を聞いて下
さい。
証言
 [27] さて、補償金[の請求]は1年間以内と規定した法律を(注)、どうぞ取り上げて下さい。私
 が強調するまでもなく、その法律は私が現実に保証人になっていても支払わなくてよいとしてい
 ます。その法律が私にとっての証拠であり、また私は証人になれないが、証人は彼自身である
 と宣言できます。さもなければ、彼はこの法律が特定している期間内に、私を告訴したに違い
 ありません。
(注) それらは、1年の終わりに更新しない限り、無効になる。

法律
 [28] そこで、アパトゥーリオスが嘘をついている別の証拠を、あなた方に示させて下さい。私が
 彼に対するパルメノーンの保証人になっていたとすれば、原告をパルメノーンのためとはいえ
 敵にすることは、彼が私を通じて原告に貸したものを失っていないことからみて、明らかに不可
 解です。また、彼に対するパルメノーンの保証人になったとされて、私が窮地におかれたことを
 許してさえいます。私は、その男にパルメノーンを正当に扱うよう求めてきましたが、その男が
 どのような心根から私に寛容を示すことができるのでしょうか? 彼から銀行に対する保証人だ
 と言い張られて、敵にすることになっているときに、彼からどんな落とし前がえられると期待でき
 るのでしょうか?
 [29] 陪審員の皆さん、あなた方は、私が保証人になっており、それを拒否しなかったとされて
 いることに、心に留めていただく値打ちがあります。私の論拠は、提示された調停に従って、保
 証人を受入れ、合意を支持していれば、大変強力です。この事件が3人の調停人に委ねられ
 たことは、証言が示す通りです。だが、この3人の調停人によって決定されたものはありませ
 ん。そうしたとき、私がはたして保証人を拒否できるのでしょうか? もし裁定が合意に従ってい
 ないとすれば、私が保証人として働かなくてもいいはず。したがって、陪審員の皆さん、私が実
 際に保証人になっていたならば、すぐさま出かけていって弁明を放棄せず、それを否定しつづ
 けたことでしょう。
 [30] 繰り返しになりますが、合意文書が彼らによって持ち逃げされた後、原告とパルメノーン
 は新しい文面を仕上げようとしました。それによって、彼らは従来の合意書が無効であることを
 認めたことになります。そのことはすでにあなた方に証人が陳述した通りです。彼らは裁定が
 欲しくなって、別の文面を仕上げようとしていますが、はたして既存のものが失われているなか
 で、別の文面が書かれていなくても、はたして調停人や保証人がいまなお存在するといえるの
 でしょうか? 事実、アパトゥーリオスは1人の調停人、パルメノーンは3人の調停人が必要と主
 張し、彼らはそれぞれの観点から新しい文面を仕上げことに同意しませんでした。しかし、元の
 合意文書が抹殺された後で、私が保証人になったという彼の主張に従って、しかも他の文面
 が書かれていないもとで、合意書を作成する能力もない彼が私を告訴する権利がどこにある
 のでしょうか?
 [31] さらに、パルメノーンがアリストクレスに、彼の共同調停人たちの意見が一致しないもとで
 裁定を下すことを禁じたことは、証人があなた方に証言した通りです。さらに、同じ人物が調停
 によって示された裁定に従って文書を抹殺し、また共同調停人たちを無視し、彼がそうしたこと
 を禁止するとした注意に逆らって決定したと宣言しているとき、あなた方はいかに公正を保っ
 て、その輩を信用し、私を非難することができるでしょうか? このことを、陪審員の皆さん、考
 慮して下さい。
 [32] その場合、私ではなく、パルメノーンを念頭において下さい。この男アパトゥーリオスは、い
 まアリストクレスの裁定を信頼して20ムナを取り返そうと、訴訟を起しています。また、パルメノー
 ンはここにいて、アリストクレスを調停人の1人としてではなく、3人のうちの1人として、この案件
 を委ねたことを証明するため、証人を呼び出して、自己弁護しようとしています。
 [33] それは、彼は妻と子供が地震で死ぬという、おぞましい災害に直面して家に向け出航した
 後で、彼が共同調停人たちを無視して、裁定を下すことを禁じていたこと、そして合意書を抹殺
 して、彼が不在で欠席しているもとで裁定を下したことを証明するためでもあります。パルメノ
 ーンが自己弁護のためにそれらの事実を持ち出したとき、あなた方のなかに不正に作られた
 裁定が法的に有効かどうか検討した人が、はたして1人でもおれたでしょうか?
 [34] それ以上に、合意の文書が現存しているのではないか、アリストクレスが唯一権威を持っ
 た調停人であったのか、パルメノーンは裁定書を作ることを禁じなかったのではないか、災難
 は裁定書の発表前に降り掛かっていなかったかのではないかといった、あらゆるポイントが論
 争されたわけではありません。助言人や調停人が無慈悲であったから、その男がここに戻って
 くるまで、この事件の解決を延期することにならなかったのか? さらに、パルメノーンがあなた
 方の前に嘆願に来て、すべてのポイントについて是非を問うことで、原告に正当性がないこと
 を証明することができますが、この男とまったく契約を結んでいない私に対して、あなた方はい
 かに公正な判定を下しうるでしょうか?
 [35] 他方、私は異議申し立てを行っており、またアパトゥーリオスは根拠がなく法律に反する訴
 訟に出ています。それらについて、陪審員の皆さん、私は多くの証拠を示すことができたと思っ
 ています。その要点は、アパトゥーリオスが私たちとの合意を示す書面を持っていると、いまも
 ってあえて主張しないことにあります。私の名前が調停人としてパルメノーンとの合意書に書か
 れていたと、彼は偽って述べているわけですから、その書面を彼に提出させて下さい。
 [36] これを根拠にして、彼に会って下さい。誰彼も他人と合意した場合、書面にシールし、それ
 らを信頼できる人に寄託します。その目的は、彼らのあいだで紛争が起こった場合、その文面
 を参考にして問題点を解決することにあります。しかし、ある人が正確な知識をもとに実行し
 て、あなた方を言葉で偽った場合、あなた方はいかに公平に彼に信頼を置きうるでしょうか?
 [37] しかし、(不正を働き、根拠のない告発を行うことを好む人々にとっては、最も容易なやり
 方は)何人かの証人が彼のために私に不利な証言をするでしょう。そうした証人を私が告訴し
 ても、彼は自分の証言が真実だというだけで、それがはたして証明になるのでしょうか? それ
 が合意書の条文によって出来るのでしょうか? もう、これ以上事態を遅らせないで下さい。一
 度、書面を彼らに持って来させて下さい。それが失われたというなら、私は虚偽の証言するの
 を阻止するためには、どのような方法を取ればよいのでしょうか? その文書が私に寄託されて
 いれば、私が保証人たるが故にそれを持って逃げたなどと非難して、アパトゥーリオスが私を
 告発するようなことはなかったはずです。
 [38] しかし、それがアリストクレスに寄託され、合意書が原告の入れ知識でなく失われていたと
 して、彼は合意書を預かるだけで、それを作れもしない男を告訴しないで私を告発して、合意
 書を失った男を証人として連れてきて私に敵意を向けさせるといったことが、はたして起きたの
 でしょうか? 彼らが邪悪な企てに共謀していなかったかどうかは不明です。
(04/07/20記)


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