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▼簡単な解説▼
(1) 弁論の時期と構成
 この弁論は前323/22年頃に書かれたとされる。この弁論は、他とは違って、海上貸付に関す
る訴訟らしい体裁を持ち、またその構成も序論、本論、結論という定型により従っているかの
ようである。[1-6]は序論であり、この海上貸付の合意と紛争の概要が示される。本論の[7-
17]は、この貸付後の航海の経過と、それに伴って生じた争点が示される。同じく[18-36]は、
被告の言い訳とそれに対する原告の反論が示される。[37-50]は結論である。
(2) 当事者
 この弁論の原告は話者で貸し手のグレイオスと筆頭貸し手のパンフィロスであり、また被告
は借り手で商人のディオニュソドーロスとパルメニスコスである。原告の話者が、被告のうちア
テナイに居住するディオニュソドーロスを追及するかたちで弁論が進む。彼らはいずれも外国
人とみられる。原告と被告とでは国籍が異なるかみえるが、いずれにしても不明である。
(3) 金銭の貸し借り
 この弁論における直接の金銭の貸し借りは、原告が被告にアテナイとエジプトとを往復する
穀物交易のために、それに用いる船を担保として3000ドラクマを貸付けたというものである[3、
6]。それ以外に、被告はアテナイの人々から金銭を借り受けているようである[22、26]。パル
メニスコスは、ロドス島で原告からの借受金を又貸ししているようである[17]。
 ただ、被告が担保とした船が被告の持ち船かどうか明白でない。むしろ被告ではない船主が
いるようでもある[10]。それがいるとすれば、この船と交易に関わる金銭の貸し借りは複雑と
なる。
(4) 紛争の内容
 借り手のうちディオニュソドーロスはアテナイに残り、パルメニスコスがエジプトに出向いて穀
物の買付けることとなった。その最中、アテナイにシチリアから大量の穀物が輸入され、その
価格が下落する。その情報を、ディオニュソドーロスは地中海最大の中継港ロドス島に連絡員
を派遣して、知らせる[7]。それを受け取ったパルメニスコスは船をロドス島に寄港させ、積荷
を売り払ってしまう[10]。その後も、その船はアテナイに帰航せず、また元金を返済せず、利
子も支払わない。それら貸付金は、結果としてあわせて2年にわたり、それを非アテナイ交易に
運用されることとなる[4、16]。
 原告の抗議に対して被告は、ロドス島に入港したのはその船が航行不能に陥ったからだと
説明し[21]、元金はもとより利子を支払うという。但し、その利子はその船の航海距離に比例
した利子、すなわち復航のロドス島までの利子を支払うと主張する[13]。そうしたやりとりがあ
った後、その事件は法廷に持ち込まれる。
(5) いくつかの論点
 この事件の核心は、その海上貸付がアテナイを出港してアテナイに帰港することを条件にし
て行われていながら、それが守られなかったところにある。その条件は単に私的な条件ではな
く、当時にあっては公的な条件―海上貸付(契約)はアテナイ向けの交易について認められる
[3、47]―でもあったが、それが穀物市況の変動によっていとも簡単に破られたのである。
 原告は、アテナイの伝統的な海上交易秩序の上に立って、被告を告発、論難するが、被告
は海上交易の秩序や契約を無視して、現実的で妥協的な清算をあっけらかんと提案している
かにみえる。また、被告は原告から貸付を受けるに当たって、最初に提示した市況に応じて手
仕舞いする方式に従っただけであり[5]、それによって実損はないではないか、といわんばか
りの振る舞いである。
(6) いくつかの注目点
 被告らが海上貸付契約をいとも簡単に破ったのは、1つには、原告が陳述するように、彼ら
がギリシアの穀物不足に乗じて、エジプトの穀物を買い占め、ギリシア各地に高値で売り込
み、暴利をむさぼったとされる、エジプト元統治官クレオメネースの一味であったどうかはさて
おき[7]、かなりの人々が市況目当ての商いをしていたからである[8]。
 2つには、原告以外にも貸し手がおり、彼らが当然のように被告の清算を受入れているのは
[22、26]、その契約条件が原告とは違って、被告が最初に提示した条件であったとみられる。
そのことは原告とは違って、非アテナイ交易に用いられることをあらかじめ承知して、海上貸付
を行なう人々がアテナイに少なからずいたことを示そう。
 原告のグレイオスにあってもロドス島向けの海上交易を手掛けていたことを認めている
[13]。ことほど左様に、すでにアテナイは衰退期に入っており、特に外国人商人にとって忠勤
すべき市場ではなく、余分な規制を持つ市場となり、その伝統的な海上交易秩序は崩壊しつつ
あるかにみえる[24]。
 すでにみたように、この交易に従事した船の持ち主が被告ではなく別に船主がいたとすれ
ば、その船が担保となるということは被告が共有船主であるか、それとも船主がその船を取得
するため、あるいは交易資金を確保するため、被告から貸付を受けていたかである。そのい
ずれであっても、その船の航海あるいは運航の主宰者は船主ではなく、被告にあったとみられ
る。

▼弁論本文▼
[1] 陪審員の皆さん、私はこの貸付けの分担者です。私たちは、海上交易の業務に従事し、ま
た自分の金銭を他人にも投資しています。いま、非常に明白なある一つのことを知るために、
ここに来ています。この借り手は、あらゆる点で、私たちを出し抜こうとしています。彼は、資金
をよく知られた貨幣でもって受取り、私たちに書類の切れ端(注)を手渡しました。彼の言い分
に従えば、一対の銅製品を買うことになっていますが、一方の私たちはそれに資金を出す約
束していません。そのことを借り手にはっきりと伝えてあります。
(注) それは、勿論、パピルスである。
[2] どうしたことが、私たちのせいなのでしょうか? また、私たちの金銭が危険にさらされている
とき、どういった担保をえたというのですか? 私たちは、陪審員の皆さんとあなた方の法律を
頼りにしています。その法律は、ある人が他の人と任意に結んだ合意は有効と、規定していま
す。しかし、私の見解では、金銭を受け取った人の性格が十分に高潔でなければ、またあなた
方(注)に敬意を表さず、しかも貸付けた人の権利に考慮しなければ、あなた方の法律や任意
の契約は何の役にも立ちません。
(注) すなわち、裁判所の陪審員。
[3] いま、ここにいるのはディオーニソドーロス以外の何ものでもなく、厚顔をさらけ出してここ
に来ています。彼は、彼の船がアテナイに帰港すること条件にして、私たちから3000ドラクマを借
りました。私たちにとっては、昨年の収穫期までに金銭が返却されていればよかったのです
が、彼は船をロドス島に向けてしまい、そこで積荷を下ろし、そしてまた契約やあなた方の法律
に逆らって(注)、それを売ってしまいました。その上で、彼はロドス島からエジプトに向けて出
港し、そこからロドス島に戻りました。アテナイで資金を貸した私たちには、今日になっても私た
ちに金銭を返却してこないばかりか、担保さえ提出しようともしません。
(注) アテナイの商人は、アテナイ向けの穀物を船積みすることだけが許されており、他の港向けは許され
ていません。デモステネス弁論第56番10節参照。
[4] そればかりか、この2年間、彼は貸付けと交易との担保になっている船を保持することで、
私たちの金銭から利益を上げています。それにもかかわらず、彼はあなた方の法廷に立ち現
れ、あからさまに私たちに損害額の6分の1を罰金として負担させ(注1)、また私たちを収容所
に入れようとしています(注2)。そこで、私たちは、アテナイの皆さん、そして私たちに手を差し
伸べてくれるすべての人々に、嘆願します。私たちが不当に扱われていることを知って頂きた
いと思います。そこで、最初にこの貸付けがどのように契約されたかを説明したいと思います。
そうすれば、その事件の審理が、さらに容易になるからです。
(注1) これはエポベリアepobeliaという罰金であり、原告が[陪審員の]票決で5分の1を取り損なうと、課せら
れる[罰金1000ドラクマという]。
(注2) これは多分「泊まる」をいう。同様の強調はデモステネス弁論第32番29節にもみられる。
[5] アテナイの皆さん、このディオーニソドーロスと仲間のパルメニスコスが、昨年のメタゲイト
ニオンの月(注)に私たちのところに来ました。彼らは彼らの船がエジプトに向け出帆し、エジプ
トからロドス島またはアテナイに航海することを条件にして、資金を貸して欲しい。そして、それ
ら港のいずれかの港で航海事業による利益を支払うということで、合意したいといいました。
(注) この月は8月後半から9月前半を指している。
[6] しかし、私たちは、陪審員の皆さん、アテナイ以外の港への航海事業には資金は貸さない
と答えました。彼らはここに戻ることに同意しました。この理解に基づいて、往復航海してくる彼
らの船を担保とし、そしてそうした文言を書面に入れることでもって、私たちから3000ドラクマを借
りることとなりました。この契約のなかで、パンフィロスが貸し主に指名されていますが、彼も貸
付けの分担者です。私は記載されていませんが、私も分担者の一員です。

まず、合意書を書記が読むようにして下さい。
合意書
[7] この合意書に従って、陪審員の皆さん、ここにいるディオーニソドーロスとその仲間のパル
メニスコスは私たちから資金をうると、アテナイからエジプトに向け彼らの船を出発させました。
パルメニスコスは船に乗って出帆しました。ディオーニソドーロスはアテナイに残りました。私が
あなた方に告知した人々は、陪審員の皆さん、クレオメネースの手下とその共謀者です。彼は
エジプトの元統治官で(注)、その統治を引き受けたときから、再販売するために穀物を買い占
め、その価格を操作することで、あなた方の国やその他ギリシアの国々に少なくない被害を与
えてきました。それに当たって、彼はそれら男たちを共謀者として抱えてきました。
(注) 前331年、アレクサンドロスのエジプト征服後、その地方の統治官として指名された。
[8] 彼らのあるものはスタッフをエジプトに送り出し、他のものは積荷とともに航海していました
が、[アテナイに]残った人々は海外にいる連中に手紙を送り、実勢価格を知らせていました。
それを通じて、彼らはあなた方の市場が高価をつけると穀物を持ち込み、価格が下落すると
他の港に向かわせていました。それが、陪審員の皆さん、穀物価格の上昇の主な要因となっ
ているのです。それは手紙と共謀のおかげです。
[9] さて、彼らがアテナイから出帆したとき、穀物の価格はかなり高くなっていました。そうした
理由から、合意書にアテナイに戻り他の港には行かないという、彼らを拘束することになる条
項を書き込むことを甘受したのです。その後になって、陪審員の皆さん、[何隻かの]船がシチ
リアから入港すると、穀物の価格は下落しました。その頃に、彼らの船がエジプトに到着してい
たのです。被告は、さっそくある男をロドス島に送り出し、情報不足になっている仲間のパルメ
ニスコスに連絡を取り、彼の船をロドス島に向かわせるようにしました。
[10] それで次のような結果となりました。被告の仲間パルメニスコスは彼から送られた手紙を
受け取り、[アテナイの]実勢価格を知るとロドス島で積荷の穀物を放出し、いずれ彼らを縛る
ことになるのを分かっていながら、陪審員の皆さん、合意や処罰に逆らって、彼らはそれを売り
払いました。それによって、彼らはあらゆる契約違反に関わることになりました。船主や貨物上
乗人は、あなた方の法律をあなどって、彼らが同意しあえる港に向けて出帆するか、さもなけ
れば厳しい罰を受けるかにおかれました。
[11] 他方、私たちはすぐさま何が起きたかを知ることとなり、彼の振る舞いに大変、狼狽(ろう
ばい)させられました。そこで、一連の陰謀の主要な主謀者であるこの男のところに行き、当然
とはいえ怒りを込めて抗議しました。私たちは合意書のなかで、船はアテナイ以外の港には向
かわないことを条件にして、金銭を貸したのだと厳しく注意しました。それに対して、彼は、私た
ちがロドス島への穀物輸送に加わった仲間を抱えていたと非難し、断言している人々の疑惑を
解こうとしませんでした。[それはともかく]彼とその仲間が合意書の指示に反して、船をあなた
方の港に戻さなかったことに抗議しました。
[12] 私たちは合意や権利の件まで話が進みませんでしたが、彼に利子とともに借りたものを
当初の合意に基づいてとにかく返すよう要求しました。相手側は、合意書に明記されている利
子は支払わないと明言するなどして、私たちを横柄に扱いました。彼がいうには、「あなた方
は、航海をやり遂げた程度に比例して計算される、利子を受け取ればいいのだ」といい、さら
に続けて「わが方は、ロドス島までの利子は払うつもりでいるが、それ以上は払わない」といい
ました。彼は自分の都合で法律を作り、合意書にある正当な文言に従おうとしません。
[13] 私たちは、こうしたことに何はともあれ、おとなしく従うつもりはありません。私たちが過
去、ロドス島に穀物を運んだことを白状するとしても、それを許せません。彼はさらにしつこくな
り、多数の証人を連れて来て、私たちに立ち向かってきました。彼は元金とロドス島までの利
子を、私たちに払う用意は出来ていると主張しています。彼には払いさえすればいいのだろう
いっているにすぎません。陪審員の皆さん、私たちの告訴によって生じた費用を加えたとして
も、私たちがそうした金銭を受け取りたくないことは、お気づきのことと思います。その結果は
明白です。
[14] アテナイの皆さん、あなた方市民のうち何人かがたまたま在廷され、提訴された事項を認
めていただき、また紛争額の全額を請求してよいと助言いただいています。しかし、私たちが
同意して結審するまでに、利子はロドス島までとする計算は認めないとは、まだ助言いただい
ていません。陪審員の皆さん、私たちは合意書が示す権利を忘れたわけではありませんが、
多少の損害や譲歩はやむをえないと考えています。そうするのは訴訟好きではないからです。
しかし、私たちが彼の申し出を受入れるばかりになったとみて、奴が「よーし、合意はキャンセ
ルされた」というなら、「私たちが、どうしてキャンセルするとでもいうのですか? 
[15] 勿論、あなた方が支払うつもりでいる金に、いまさら相手にするつもりはありません。私た
ちは銀行家の面前で合意を無効するつもりでいますが、私たちが紛争中の諸問題について評
決をうるまで取り消す積もりはまったくありません。どのような異議申し立てをすればいいので
しょうか? あるいは、法律をめぐって争っているとき、何に信頼を置くことができるのでしょうか?
 調停人の前か、法廷の前かに関わりなく、たとえ私たちの権利回復の頼りとなっている合意
を撤回することになったとしてもです」。
[16] それが私たちの彼への回答です。陪審員の皆さん、ディオーニソドーロスの輩が自らを縛
ることを認めた合意書を妨害したり、無効したりしないようにして下さい。しかし、元金に関して
いえば、彼が自ら当然支払うと認めたものは、私たちに支払うべきです。そして、この港の商
人から彼の好みで選ばれた、数人の調停人によって利子の清算方式を決めたことも、(彼にと
って金は有用であったという理解から)忌避されるべきです。しかしながら、ディオーニソドーロ
スはこれらのことを一切聞きいれず、私たちが彼の言い分通りに払うことも、また合意を取り
消すことも拒否したので、彼は2年間にわたって私たちの資金を借り続け、利用することになっ
てしまいした。
[17] そして、そのなかで最もけしからぬことは何か、陪審員の皆さん、その輩[ここではパルメ
ニスコス]が私たちの資金を他の人々に貸付け、利子を受け取っていることです(注)。それが
アテナイにおいてでなくまたアテナイ向けでもなく、ロドス島やエジプ向けの航海のために借りら
れています。私たちがあなた方の港に向けた航海のために資金を貸しているあいだも、彼は
裁判所にお世話になるものは何もないと考えているのです。
(注) 海上貸付は大きな危険が予想されるため、不動産を担保にする場合よりも、高い利率がつけられる。
デモステネス弁論第50番17節よれば、ある海上貸付の利率は12と1/2パーセントでとなっている。しかし利子の
率は様々です。

私は真実を述べています。私がこれらの問題に関して記した、ディオーニソドーロスに対する
異議申し立て書を、あなた方に書記が読み上げるよう、取り計らって下さい。
異議申し立て
[18] この異議申し立ては、私たちが再三にわたりディオーニソドーロスに申し出ていたもので
あり、長期にわたって世間の目にさらしてきたものです。それに対して、彼は私たちをどうしよう
もないほどの馬鹿たれだと言い放ちました。私たちは彼がその調停人の前に来るほど無分別
とは思っていませんでした―その調停人は彼に負債を払うよう宣言していたからです―。彼が
金を持って法廷に入って来たとき、彼があなた方をごまかすことが出来れば、他人の持ち物の
占有権を返却したかも知れません。しかし、それが出来なければ、金銭を払ったはずです。彼
は自分の事件が公正に扱われるかどうか確信を持てず、あなた方を試めそうとしています。
[19] それでは、陪審員の皆さん、ディオーニソドーロスが行ったことをお聞き下さい。私の想像
通り、あなた方も彼の大胆さにしばし驚きをかくせず、また彼が入廷にするに当たって、この世
で何に依拠しているかを知れば、さらに驚かされるでしょう。それは大胆さといった代物ではな
いからです。ある男がアテナイの港から金を借りながら、
[20] また、あなた方の港に帰るものとすると書くことに合意しておきながら、またその船が実際
にそうしなければ、[罰金として元金の]倍額を支払わせざるをえないのに、ペイライエウスに船
を戻さず、さらに貸し手に負債を支払わないばかりか、穀物をロドス島で下ろして売るといった
ことをしておきながら、どうしてあなた方の顔をみられるのでしょうか?
[21] 彼がこれにどう答えたかを聞いて下さい。彼は、船がエジプトから帰港中に航行不能にな
り、それが原因でロドス島に寄り、そこで穀物を下ろさなければならなかった、と主張していま
す。また、その証拠としてロドス島からの船を用船し、アテナイ向けの品物のいくつかを送っ
た、と述べます。それが彼の弁解の一部であって、それ以上のものではありません。
[22] 彼は、他の何人かの債権者がロドス島までの利子を受入れることに合意していた、と主張
しています。また、彼らが行なったのと同じような譲歩を、私たちがしないでおられるはずはま
ったくない、と主張しています。そして、第3に、それに加えて、合意書は船が安全に到着した場
合に金銭を払うよう求めているが、その船はペイライエウスに無事に着かなかったと主張して
います。これら論点のそれぞれについて、陪審員の皆さん、私たちが用意した回答をお聞き下
さい。
[23] まず、第1に船が航行不能になったというとき、彼が嘘をついていることは、あなた方皆さ
んがすでに承知と思っています。彼の船が、そうした不幸に遭遇していたのであれば、ロドス島
に安全に到着することはなく、その後もまた航海することに耐えられるはずがありません。しか
し、その船が実際にロドス島に安全に到着し、その後エジプトへ送り返されたことは説明を要し
ません。現在、その船はアテナイへ以外のあらゆるところで、いまなお航海し続けています。彼
がその船をアテナイの港に戻らざるをえなくなれば、その船は航行不能になったということでし
ょう。それに対して、ロドス島で穀物を下ろしたときは、その同じ船には耐航性があったと主張
することが、はたして良識に反しているとでもいうでしょうか?
[24] どうして、私が他の船を用船して貨物を積替え、アテナイ向けに送り出さなければならない
のでしょうか? そうです、アテナイの皆さん、その船の積荷は被告やその仲間のものばかりで
はありませんでした。私の想像によれば、その男たちが目的地に到着する前に航海を切り上
げようとしているのを、乗船していた貨物上乗人たちが見抜いて、彼らの貨物を他の船舶に必
要に応じて積替え、こちらに発送して来ました。彼らの商品に関してみれば、彼らはアテナイ向
けに積み込むのではなく、値段が上がりそうなものを探していたとみられます。
[25] なぜなら、あなた達[この場合、被告ら、以下同じ]が認めているように、他の船舶を用船し
たとき、あなた達の船にあったすべての貨物を積替えず、穀物だけをロドス島に残しておいた
のは、なぜですか? それは、陪審員の皆さん、ロドス島で穀物を売って、利益を稼ぐためでし
た。彼らはここアテナイで価格が下落したことを聞きていたからです。しかし、他の商品は利益
を上げることを期待して、あなた方に向けて送られてきました。ディオーニソドーロスが、あなた
方に何隻かの船の用船のことを語ったのは、船が航行不能になったことを証明しようとしたの
ではなく、あなた方に気に入られたかったからです。
[26] この種の問題については、私が述べてきたことで十分です。彼らがいっているロドス島ま
での利子を受け取ることを承諾した債権者と私たちとは、まったく関係がありません。誰かがあ
なた方に彼らのものが送り付けられてきたとしても、当事者の一方の側[原告]は悪事に耐え
られないのです。しかし、私たちがあなた方に何も送り付けなかったとしても、[私たちは] あな
た達のロドス島への航海に同意しないことはもとよりであって、私たちを縛るものは合意書以
外にはないと判断しています。
[27] いま、合意書はどう定めていますか、それはどこの港に向け出帆せよと、あなた達に求め
ていますか? アテナイからエジプトへ、そしてエジプトからアテナイへ、と定めています。そし
て、それを実行しない場合、[罰金として貸付金の]倍額を支払うよう要求しています。あなた達
がそれを実行すれば、悪事を関与したことになりません。しかし、あなた達がそれを行なわず、
船をアテナイに向けなかったのです。処罰される要件はあなた達にあり、他の人にはありませ
ん。あなた達だけにあります。ある陪審員に、1つことがらあるいは2つのことがらの一方を示し
下さい―それは、私たちの合意書が有効でないか、それとも合意書に従って振る舞うことを、
あなた方に要求されていないかです。
[28] ある種の人々が、あなた方の気に入るものを送り付けたり、わずかな根拠でロドス島まで
の利子だけを受け取るよう勧めたりしています。そうしたことが、合意書を犯して船をロドス島
に入らせるといった、悪事につながったのでしょうか? 私はそう考えたくはありません。その陪
審員は、あなた方が他の人たちに譲歩したことを決め手としないとしても、あなた達が私たちと
結んだ合意書を決め手とするはずです。あなた達の主張に従って、実際に利子の軽減が行わ
れたとしても、債権者にとって不利ではなかったのではないかと、あなた達の誰もが考えるの
はもっともなことです。
[29] エジプトからアテナイへの外洋航海のために、彼らに金を貸した人々にとって、彼らがロド
ス島に着き港に入ったとき、ロドス島で利子が軽減されたとしても貸付金の全額を返済され、さ
らにそれらの金がエジプトへの再航海に用いられたとしても損失をこうむったわけではないと、
彼らが判断していると、私は受け取っています。そうではなく、彼らにとってここの港への航海を
続けるより、むしろ多くの利点があったからです。
[30] ロドス島からエジプトへの航海が阻止されなかったことで、彼らは同じ金を2、3回用いるこ
とが可能となりました。彼らはかの地で冬を過ごし、航海の季節を待たなければなりませんでし
た。それに伴い、何人かの債権者は追加の利益をえましたが、彼に何かを送り付けたわけで
はありません。私たちにとって利子だけが問題ではなく、私たちの元金が返却されていないこと
にあります。
[31] 彼を聴聞するまでもありません。彼らはあなた方をごまかすことに努めており、他の債権
者を取引した上で、あなた方の前に現れようとしています。彼には合意書とそれに伴って発生
する権利を尊重するようにさせて下さい。この問題について、私はあなた方に説明しつくしてい
ません。被告は、合意書は船が安全に到着した場合に限って、彼に貸付金を返済するよう要
求しているとこだわっています。私たちもまたそうなるよう主張し続けます。
[32] しかし、私はあなた方自身が、直接、ディオーニソドーロスに船は失われたのか、それとも
安全に到着したのかについて質問されることを歓迎します。その船が難破して失われているの
に、なぜ利子について議論するのか、また私たちにロドス島までの利子しか受け取らせないと
要求しつづけるのか。この件に関し、私たちは利子や元金を回復する権利を行使できないで
います。しかし、その船が無事で難破していないとすれば、あなた達が支払うと合意した金をな
ぜ私たちに支払わないのですか?
[33] それでは、アテナイの皆さん、あなた方であれば、船が港に安全に着くかどうかを、どのよ
うにして納得することになりますか? その手始めはその船がいま航海中であるという単なる事
実によってですか、それとも彼ら自身が発表するもっともらしい声明によってですか。彼らは、
私たちに元金と一部の利子の支払いを受入れるよう、要求しています。そのことは、船は安全
に港に着いたが、その航海は完全に終っていないことを前提としています。
[34] ここで、アテナイの皆さん、契約が示す必要条件に従って行動する私たちなのか、それと
も合意した港に向かわずロドス島やエジプトに航海し、また船が港に安全に着き、喪失してい
ないとき、合意書を破って利子の軽減をかまえて要求し、さらに2年間も私たちの金を用いてい
る彼らなのか、その正否を検討して下さい。
[35] 彼らがしていることは前例がないものです。彼らは、私たちの貸付金の元金を支払うこと
を申し出てはいます。それは船が港に安全に着いたことを前提としています。しかし、彼らは船
が遭難したという根拠にして、私たちの利子を奪う権利があると主張しています。しかしなが
ら、合意書は貸付金の元金に関してある考え方を、利子に関して別の考え方を持っているわ
けではありません。私たちの権利はそのどちらについても同じであり、またその回復の手段も
同じです。

[36]
合意書を再び読んでください。
合意書
アテナイからエジプト、そしてエジプトからアテナイへ。
アテナイの皆さん、私が「アテナイからエジプトへ、そしてエジプトからアテナイへ」といっている
ことを、お聞きおよびです。残りを読んで下さい。合意書そして、船がペイライエウスで安全に
到着する場合、……
[37] アテナイの皆さんが、この法廷である一つの結論に達することは非常に容易なことで、多
言を要しません。その船は港に安全に着いており、無事でいることは、彼ら自身も認めている
ところです。そうでなければ、彼らが貸付金の元金および一部の利子を支払うことを申し出る
わけがありません。しかしながら、その船はペイライエウスに戻って来ていません。それを根拠
にして、私たちや債権者たちを不当に扱おうとしているのです。また、すなわちその船が合意し
た港に舞い戻らないがために、私たちは法廷に持ち込んでいるのです。
[38] しかしながら、ディオーニソドーロスはまさにその事実がゆえに不正を行っていないと主張
します。すなわち、彼はその船がペイライエウスまでの航海を終えなかったことゆえに、利子を
支払う必要がないと主張します。しかし、合意書はどういっていますか? ゼウスに誓って、ディ
オーニソドーロス、あなたがいいたことはそれだけですか。そうではないはずです。合意書は、
元金と利子の両方を支払わない、あるいは損なわれてない担保を見えるかたちで提示しようと
[難しくいえば、瑕疵のない担保を公示]しないのなら、あるいはその他の事項で合意書を破れ
ば、あなたに倍額が請求されると宣言しています。

合意書のその条文を読んで下さい。
発言
[39] あなたは私たちから金を受け取った後、船を見えるかたちで展示する場所を用意しようと
しましたか? それをしないのに、あなたがその船が安全であると主張しています。それとも、あ
なたがアテナイの港にその船を連れ帰ったとでもいうのですか? 合意書は、あなたがペイライ
エウスに船を連れ帰り、貸し手の前に見るかたちで展示するよう、特に規定します。
[40] これが重要なポイントです、アテナイの皆さん。彼の途方もない言動にまず注目して下さ
い。その船は航行不能となった、またそれを理由にして、ロドス島の港にその船を引き入れた
と、彼はいいました。その後、その船は修理され、航海可能となりました。それでは、善良なあ
なたがなぜ、エジプトやその他の港に出帆させようとしたのですか? あなたは、合意書が損な
われてない船を見るかたちで展示するよう要求しているのに、あなたの債権者が住むアテナイ
に今日になっても決して戻そうとしないのは、なぜですか? そうしたことは、私たちがあなたに
再三にわたり要求し、そうするよう申し入れていたことばかりです。
[41] それだけではありません。あなたは非常に不敵であるか、むしろ非常に無礼です。合意書
に従って、私たちに[罰金として]貸付金の倍額を払うことになっているのに、私たちにロドス島
までの利子を受け取るよういっていながら、あたかも自分の命令が合意書より力があることと
証明しようとするかのように、未払い利子さえ払うとはしていません。そして、船はペイライエウ
スで到着しなかったといい、横柄な態度に出ました。こうしたことから、陪審員から、あなた達が
死刑の宣告を受けることが公正にかなっています。
[42] 陪審員の皆さん、この輩以上に非難すべき人がいるのでしょうか? その船がペイライエウ
スに安全に着なかったとしてもです。エジプトからアテナイへの航海のために金をわざわざ貸し
た、私たちも非難されるべきでしょうか? それとも、アテナイに戻すことを条件に金を借りた
後、その船をロドス島へ連れていったのは、この輩とその仲間の過失なのでしょうか? 彼ら自
身の意志でそれを行っていることは、多くの根拠からみて説明を必要としないほど明白です。
[43] そこで起きたことが彼らの意志に反しており、またその船が現実に航行不能となっていた
としても、その不慮の事故を取りつくろうとして、彼らが船を修理した後、他の港にわざと航海さ
せるのではなく、アテナイに向け出発させたかも知れません。しかし、彼らはそうしたことはまっ
たくせず、彼らはいままでの悪事とははるかに重大なことをしでかした上で、この法廷に来て争
うことになったのです。それが嘲笑の精神でもって行われました。それが止めるには、あなた
方が彼らに元金と利子を支払えといった、ずばっと判決を下した場合かも知れません。
[44] あなた方、アテナイの皆さん、そこで、この種の男たちが好き勝手に振る舞うことを認めた
り、また[アテナイに]停泊するといったことを許すというのですか? 彼らが成功すれば、彼らに
他人のものをいつまでも使い続けられるという、期待を持たせることになります。あなた方をご
まかせない場合、合意書に指示する罰を受けたにしても、彼らは借りた元金だけをただ支払う
ことになるでしょう。彼らが合意書にあるどんな違反も犯していても、それなら自分から申し出
て罰としての[貸付金の]倍額を支払いさえすれば、それでいいだろうとするのは正義に著しく
反しています。あなた方は、私たちのように手荒く扱われたことがないので、彼らを大目に見て
いるのではありませんか。
[45] この問題に関する私たちの請求は、わずかで容易に記憶しうるものです。私たちは、アテ
ナイからエジプトへそしてエジプトからアテナイへの航海用として、ディオーニソドーロスの輩と
その仲間に3000ドラクマを貸しました。私たちは元金と利子のいずれも受け取っていません。し
かし、彼らは私たちの金を借りたままで、2年間もそれを使用し続けています。合意書は、彼ら
が今日までその船をあなた方の港に戻そうとはせず、それを見るかたちで展示しようとしない
のですから、彼らは倍額を支払わなければなりません。彼らのなかの1人か2人がその金が返
済するつもりでいるとも宣言しています。
[46] それが、私たちが貸した金が彼らから取れなくなり、あなた方の前に現れ、あなた方の助
けを借りて、金を取り戻そうとするのが当初からの請求です。また、それが私たちの事件の申
し立てです。しかし、彼らは金を借り、それを払い戻していないこと認めていながら、ロドス島ま
での利子ならともかく、合意書が規定する利子を支払う理由がないと言い張っています。彼ら
は、そんな契約は承知していないとしていますが、それに私たちは同意するつもりはありませ
ん。
[47] アテナイの皆さん、私たちがこの事件をロドス島の法廷に提起したとしても、彼らがロドス
島に穀物を持ち込み、彼らの船が入港したことを配慮したとしても、この男たちが私たちに勝
てる見込みは、恐らくありえません。私たちがアテナイ市民の前に来るようになり、また私たち
の[海上交易]契約があなた方の港向けの航海に限定されるようになってから、私たちばかり
でなくあなた方に不正を働くような連中には便宜を与えないという、あなた方のやり方は正しい
と思っています。
[48] その一方、アテナイの皆さん、いまあれこれの事件の裁判が行われているかたわらで、あ
なた方はすべての港に関する法律を制定しようとしており、また海上交易に従事する多くの
人々がここに居並び、あなた方がこの懸案にどのような裁定を下すか見守っていることを、忘
れないで下さい。人々のあいだで結ばれた契約や合意には拘束力があります。それに違反す
る人々には寛大であってはなりません。貸し手たちは自分たちの金を危険にさらしています
が、あなた方の港におけるビジネスを繁栄させることになっています。
[49] しかし、アテナイ向けに航海するためという契約書を結んだ後、彼らの船が航行不能にな
ったと主張し、あるいはディオーニソドーロスが自作自演したように、船主が様々な口実を用い
て他の港に船を入れることが許されるならば、さらに合意書に基づいてそれを払うのではなく、
彼らのいうがままに、航海の長さに比例して利子を減額することが許されるならば、すべての
契約の法的拘束力はなくなり、そうした企てを防ぐ手だてがどこもにもないことになります。
[50] すなわち、合意書に拘束力がないといった風潮が蔓延し、また悪人の請求が権利よりも
優越していることが解れば、自分の金を進んで危険にさらそうとする人がいるでしょうか? そう
したことは許さないで下さい、陪審員の皆さん、そのことは、交易に従事する人々があなた方
公衆をはじめ、彼らと取り引きを行っている個人とって有用な集団であり、その彼らにもまし
て、あなた方市民の大多数の利益にかなっていないからです。こうした理由から市民の利益に
もご留意下さい。

私は、自分としてなしうる限りで、すべてのことを陳述しました。しかし、さらに私の友人の1人
を、私の代わりに発言させて下さい。
(04/07/28記)

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