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Study on pre-war Shipping
using the combined Motor and Sail ship
─Its generation and existence─

目次
はじめに
第1章 帆船・機帆船の発達と構造
 1 日本形の西洋形帆船への転換
 2 機帆船への転換とその普及
第2章 日本海運の近代化とその二重構造
 1 江戸時代の海運と船主
 2 海運の近代化と政商資本
 3 国内主要航路の汽船輸送
 4 帆船船主の近代化と没落
 5 海運近代化の跛行性
第3章 重化学工業化と機帆船業の生成
 1 地場産業と帆船輸送
 2 国内貨物輸送と石炭輸送
 3 第1次世界大戦と国内輸送
 4 経済不況と機帆船への転換
第4章 帆船・機帆船船主の再生産とその条件
 1 帆船・機帆船船主の系譜と分解
 2 帆船・機帆船船主の居住地域の特性
 3 帆船・機帆船船主の兼業関係と過剰人口
 4 石炭流通枚構とその輸送形態
第5章 帆船・機帆船海運の存立分析
 1 帆船・機帆船船主の性格
 2 帆船・機帆船海運の存立枚構
 3 帆船・機帆船海運の存立形態
補遺
   関連Webページ

はじめに
 ここに掲載する小論は、

笹木 弘・篠原陽一・鈴木 暁・雨宮洋司・武城正長・土居靖範著
『機帆船海運の研究―その歴史と構造―』
多賀出版株式会社、1984.2
A5版、本文624ページ、図版12ペーシ(21葉)、7900円、残部僅少
の、第1編「帆船・機帆船海運業の生成とその存立」である(Webページのタイトルは変更してい
る)。この第1編は、この著書の総論をなす部分である。
 この著書は、1977-78(昭和52-53)年および1981-82(昭和56-57)年と長期にわたる文部省
科学研究費補助金・総合研究(A)(【付記2】参照)、そして1983(昭和58)年の科学研究費補
助金「研究成果刊行費」の交付を受け,刊行されたもである。
 なお、第1編以外の各編の目次と自抄は、下記の【付記1】の通りである。
 この小論は,明治期の日本資本主義の成立から大正期の独占資本主義の確立までの,内
航海運における小零細経営としての帆船・機帆船船主の生成とその存立の条件について概括
する。
 第1章は,その期間において支配的な船舶が,日本形帆船から合の子船,簡略西洋形帆
船,そして機帆船へと発達した経過を跡づけ,それが交通部門間や海運部門内の経済競争
の結果としての和洋折衷で簡略型の船舶近代化であったことを明らかにする。
 第2章は,江戸後期からの伝統的な大型廻船船主が,明治中期までの汽船と鉄道の発達の
もとではげしく階層分解をとげ,その一方で瀬戸内海地方の小零細船主が石炭輸送の増大の
もとで多数輩出され,主要な船腹供給者となっていくという,内航海運の近代化の跛行性につ
いてのべる。
 第3章は,その輸送需要が地場産業以外に石炭産業が追加されたことで,小零細船主は成
長するが,第1次世界大戦後の経済不況と重化学工業化のもとでその船腹供給はますます荷
主従属的となり,生産力の窮迫的な向上が要求され,帆船が機帆船へと転換していく過程を
取り上げる。
 第4章は,小零細船主の持つ船腹が下方弾力的な価格でもって供給されうる社会経済的な
地域条件と,その主要な需要者である石炭流通が少数の商業・石炭資本に支配されながら,
その最終消費者が小口分散的であったため,生産性の低い帆船・機帆船が維持された需給
条件について触れる。
 第5章は,帆船・機帆船船主は家内工業的でありながら汽船と同種の海運用役を生産してい
るが,その販売を回漕店に依存せねばならず,それを介在させることで原子的供給者として,
荷主資本に従属的な下請輸送の地位に押し込められてきたことを明らかにする。


【付記1】

序 章
(笹木 弘氏稿)

第2編 日本経済の成長と機帆船の輸送構造
(土居靖範氏稿)
1 昭和初期の機帆船輸送構造
2 戦時期の機帆船輸送構造
3 昭和20年代の機帆船輸送構造
4 昭和30年代の機帆船輸送構造
5 昭和40年代以降の機帆船輸送構造 
6 回漕業者の分析
 第2編では,機帆船が一般に普及しだした昭和初めから,減少し消滅しつつある現在までの
約60年間を取りあげる。日本資本主義の発展に重要な役割を果たしてきた機帆船を,その輸
送供給面と需要面との両面において構造上の変遷を浮きぼりにしようとするものである。とこ
ろでこの60年間の機帆船時代を,ライフ・サイクルの点から見れば,次のようになろう。(1) 機
帆船普及期―機帆船は明治の末頃から機付帆船として各地に登場してくるが,この時期に帆
船にかわって機帆船が普及する。この当時の内航海運は,瀬戸内海を中心とする沿岸地域に
おける帆船・機帆船による輸送と,大手海運企業の大型鋼船による全国的な輸送とに大きく
区分され,成立していた。帆船・被曳船・機帆船はいわば瀬戸内海や湾内を中心とした地域的
な輸送手段であった。
(2) 機帆船全盛期―地域的な輸送機関であった機帆船だが,戦局の変化に伴ない"ひのき
舞台"に乗り出し,敗戦後も瀬戸内海を中心に基幹輸送機関として,貨物輸送上大きな地位を
占めた。
(3) 機帆船転換期―日本経済の「高度成長」に対応して,機帆船にかわって小型鋼船が登
場し,それが内航貨物輸送の主役になってきた。
(4) 機帆船衰退期―機帆船の新造はなく,解徹され減少する−方である。
 本編は全体として6つの章に分かれている。
 第1章から第5章までは,それぞれ昭和初年代,20年代,30年代,40年代以降の5つの時期
にわけて各年代ごとの輸送事情,機帆船の需要・供給構造などを中心に分析している。
 貨物の集荷面で機帆船船主は回漕業者に全面的に依存したが,第6章では回漕業者の実
態を明らかにした上で,この両者間の関係を分析している。(自抄)

第3編 機帆船海運業の船主経営
(雨宮洋司氏稿)
1 経営特質の析出
2 機帆船の保有と乗組員
3 運航 
4 運航採算と経営の「近代化」
 機帆船海運業の船主経営の特徴をさぐろうとするのが本編の課題である。それは,機帆船
海運という個別資本運動の各段階(財務・雇用,購買,生産,販売)の活動の特徴を把握する
ことによってなされる。すなわち,機帆船海運業を開始するにあたっての資金調達の方法が第
1の点であり,第2はその運用であって、輸送手段としての機帆船の取得と乗組員の雇用の点
である。第3は,機帆船海運サービスの生産すなわち,機帆船運航が技術的問題も含めどの
ようになされたのか。第4は,その海運サービスがどのように販売され,「経営」の採算はどうで
あったのか。第5は,以上の各段階の活動はどのような形態でなされ,そこでの機帆船海運業
者の意識と行動はどうであったか,そして最後に,機帆船海運業が,日本資本主義発達の中
で次第に階層分化し,どのように経営の「充実」と「消めつ」がなされてきたかの姿をとらえるこ
とになる。
 以上の各段階に注目した諸特徴は,第1章以下に詳述されることになるが,ここに,それらの
経営的諸特徴を概括的に述べてみると,まず機帆船海運業というのは,「わが国独特の"下請
制"にもとづく生業的自営業である」として把握しておきたい。そして,それは,わが国独占資本
の確立期である明治末期から大正年代に漸次発達し,その後の国家独占資本主義,及び戦
時国家独占資本主義の確立期に対応して「充実」,戦後の経済再建時期に再び注目され,
1960年代の高度成長時期にその姿を変えていくということから,機帆船海運の船主経営はわ
が国資本主義の不均等発展という歴史の中で,支配的資本に積極的に利用された「生業的自
営業者」としての性格を色濃く出したものになっているということができる。(自抄)

第4編 機帆船海運の地域構造
(鈴木 暁氏稿)
1 機帆船海運と瀬戸内海
2 瀬戸内海における地域経済の形成
3 地場産業と海運・造船
4 機帆船船主と地域共同体
5 機帆船船主の階層分解と共同体の衰退
 第1章では,機帆船海運が瀬戸内海で発展した事情を,機帆船海運業と船腹量の地域分
布,それに入港船舶の動静について,主として統計データを使って明らかにしており,第4編の
序章的性格をもつものとしている。
 第2章では,瀬戸内海において,帆船および機帆船が発展した背景を,自然条件,産業の立
地そして港湾の立地について,歴史的経緯をふまえて考察している。産業の立地は輸送需要
として,また,自然条件と港湾立地は海運の基礎的輸送条件としての性格をもっている。
 第3章は,地域の伝統的産業としての地場産業と機帆船海運との関連を,主として次の2つ
の観点から問題とする。第1はいわゆる地場産業が海運の輸送需要の対象として発展と係わ
った事情をとりあげ,第2に地場産業としての海運(地場船主)と,地場産業としての造船業(主
として木船造船業)について考察する。とくに造船所については瀬戸内海における歴史的意味
合いでの船どころを対象とした。
 第4章は,本編の中核をなすもので,瀬戸内海の機帆船船主の発展を背景で支えた地域の
共同体的側面に注目する。広島県の倉橋島を主たる対象としたが,共同体的性格は,船主出
身階層の多くが農民であることから,農村における共同体ととくに異なるものではなく、問題は
共同体的要素と船主の地域社会がどのように係わっていたかである。とくに乗組員や機帆船
の建造資金の調達で,地縁的紐帯の強さがみられた。
 第5章は,本編の終章にあたるが,機帆船海運が鋼船化を迎える時期は,地域による格差,
つまり,鋼船化で成功して上向発展する場合と,鋼船への切替えに対応できずに後退していく
場合とで,いわゆる階層分解の現象がみられる。この時期は戦後の高度成長期にあたり,共
同体の解体時期とほぼ一致する。したがって,船主の階層分解と共同体との関連を考察する
ものである。(自抄)

第5編 機帆船海運と国家政策
(武城正長氏稿)
1 日中戦争までの国家的規制
2 戦時機帆船統制と戦後への継続
3 ドッジ・ラインと機帆船海運の再編
4 高度成長前期の機帆船海運政策
5 内航3法と機帆船海運の近代化政策
 本編は機帆船海運に対する積極的な政策だけでなく,機帆船海運に大きな影響を与えた国
家的規制全般について分析することを課題とする。
第1章においては,1 「上からの近代化」の強引な遂行が,機帆船海運の前身たる帆船海運に
与えた影響,特に合の子船の興隆の法制的原因について,2 近代海事法制の完備と日本形
船・合の子船への包摂について,3 急激な重化学工業化に伴う機帆船化政策について言及す
る。国独資以前のこの時期は産業政策として機帆船政策が行なわれることはなかった。
 第2章は,戦時,戦後統制を扱う。両者を同一章で扱う理由は,戦後も統制が継続され,ドッ
ジ・ラインまでほぼ同じ構造が維持されたことなどによる。1 汽船の補完物としての中央機帆船
とその強化,2 回漕業者による統制とそのオペレーター化現象,3 小型地区機帆船の国家徴
用,4 大手海運の進出,5 戦後における戦時統制の継続と占領政策,6 機帆船黄金時代の政
策的背景,7 地区機帆船統制の一足早い崩壊,などについて述べる。
 第3章はドッジ・ラインを扱う。戦後改革の完成としてのドッジ・ライン,それが機帆船業界を大
きく変容させた。特に汽船,機帆船海運の分離と回漕業者の地位・性格の変化が注目される。
第4章は,ドッジ・ラインから開放経済までを扱う。戦後の中小企業政策に注目しながら,1 木
船運送法と朝鮮戦争,2 小型船海運組合法を中心に,ドッジ・ライン後2分された機帆船,汽船
業界が鋼船化によって混合してゆくことに言及する。
第5章は,内航3法(内航海運業法,内航海運組合法,船舶整備公団法)を中心に,機帆船海
運の近代化政策を注目する。政策自体は最高の形態を取りながら近代化は失敗挫折する。
近代化政策のもつ構造的欠陥を分析する。年代的には1970年代初めまでを視野に収める。
(自抄)

終章
(笹木 弘氏稿)

巻末資料
主要文献解題
文献目録
日本船舶の船形別登簿(録)不登簿別推移(戦前)
内航船腹量の推移(戦後)
内航船舶貨物輸送トン数
機帆船海運史年表(戦前)
機帆船海運史年表(戦後)

【付記2】
機帆船業の主要地域の実態調査―その発展の類型に注目して―
東京商船大学研究報告30号,1980.3
 この研究報告は,昭和52,53年度文部省科学研究費補助金総合研究(A)「海運産業の環境
変化に伴う諸問題の総合的研究」の分担課題「機帆船解体とその近代的再生およびそれに伴
う船員雇用構造の変化について」の成果の一部である。機帆船業の生成・発展・衰退につい
て・停滞地域として広島県音戸,倉橋町,中位的地域として愛媛県伯方町,発展地域として同
波方町で選び,実態調査した結果を取りまとめたものとなっている。
「1.機帆船の生成・発展史」(土居靖範)においては,明治期から戦後「高度成長」期までまで
の,機帆船海運業が国内貨物輸送においてはたして役割,機帆船業者の小零細経営賢として
の特徴,荷主との間に介在した回漕業者の役割,そして「高度成長」過程の輸送構造の変化
のなかで階層分解が起きた状況が概説されている。
「2.広島県音戸・倉橋地域」(武城正長,土居靖範)においては,機帆船業者が早期から多数
輩出したにかかわらず,資金調達が血縁・地縁的な制約下にとどまったため,鋼船化への転
換が遅れ,いまなお全体として零細性を顛著に示していることがあきらかにされている。
「3.愛媛県伯方地域」(篠原陽一)においては,新居浜港を拠点とした輸送需要のもとで成長し
た地域で,船舶共有方式が他にくらべ発達しており,小型鋼船が進んだ地域となっていること
があきらかにされている。
「4.愛媛県波方地域」(雨宮洋司)においては,他にくらべ後進地域であったが,戦後の「高度
成長」期になると,地方銀行と鋼船造船所との結びつきで,外部資金を大量に取入れ,低賃金
労働力を吸収して,他にくらべ異常に発展した地域であることがあきらかにきれている。
あとがき」(笹木弘)においては,この調査をふまえて,本格的な総合調査を緊急に実施するこ
とが必要であるとの提起が行なわれている。                  (篠原陽−抄)

地方小零細経営としての帆船・機帆船海運業の歴史と構造に関する調査研究
東京商船大学研究報告33,1983.3
 昭和56,57年度文部省科学研究費補助金による研究成果のうち,ヒヤリング調査を重点に
とりまとめた報告書である。
 この調査研究は,日本資本主義の発達との関連において,@機帆船の技術の発達と労働
力編成,A日本資本主義経済の成長と機帆船の需給構造,B機帆船海運業の経営と上向・
衰退過程,C機帆船船主の集積地における地域・社会構造,D機帆船海運業の発展・解体と
それに対する政策を研究課題として,多角的な実態調査と文献収集を行ない,その歴史と構
造を解明しようとしたものである。
 執筆者は,この『機帆船海運の研究−その歴史と構造−』と同一メソバーであり,執筆分野
は次のようになっている。
1 総括(篠原陽一)
2 機帆船船主と地域社会の紐帯について一広島県倉橋島の事例において−(鈴木暁)
3 機帆船の運航と取引の実態について(雨宮洋司)
4 機帆船海運の取引と回漕店の役割について−若松石炭回漕店の実態−(土居靖範)
5 機帆船輸送と石炭商・石炭荷役の実態(武城正長)
 各執筆者それぞれ,持ち味のあるまとめ方をしているが,内容的には興味あるエピソードに
あふれている。機帆船関係者がどんどん没していく情況の下で,少しでも多くの人々から聴き
取りをし,こうして記録していく作業が今後とも望まれる。            (土居靖範氏抄)

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