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| この書物のプロローグ(ⅸ-ⅹⅲページ)は、著者の生地がサンティアゴ･デ･コンポステラの聖地巡礼航海に関わりがあるという、まことにもっともらしい説明から始まる。次いで、その記章ホタテガイの貝殻への思い入れの背景をまとめる。 イギリス海運史としては、少しわりくどいが、貝殻の使い方や、イギリス人巡礼者のサンティアゴへの海路についての、著者の思い入れに、耳を傾けよう。 |
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サクソン人[ドイツ北西部から5、6世紀に侵入してきた民族]たちが出帆し、ナイン･エルムズか
らクラパムにかけて出かけていた。ヒースウォル･ブルークとテムズ川とのあいだにある湿地帯
には、セント･パトリック島あるいはパトリック小島があった。そこは買収されて、バタシー[ロンド
ン南西部の自治区]となったが、ケルト人[前7世紀ごろ以降、大陸から移住して来たインドヨー
ロッパ語族]の聖人が、異教徒を改宗させるために来たところとされている。聖ジェームズの日
[4月23日]には、毎年、改宗したという数人の若者がわずかばかりの花のある歩道に座り、雑
踏と喧騒にまみれながら、ホタテガイの貝殻を入れ物にして、小銭をせびっていたとされる。
子供たちのホタテガイの貝殻の使い方やイギリス人巡礼者が海路、サンティアゴ･デ･コンポ
ステラ[北スペイン･ガルシア地方の聖地]、それに続けて東地中海を巡礼する際に用いた持ち
物とのあいだには、それなりの結びつきがあると考えたい。コンポステラ－セント･ジェームズ･
オブ･ザ･フィールズ･オブ･ザ･スター－は、いまなお、エルサレムとローマに次ぐ、キリスト教徒
にとって最も重要な巡礼の目的地となっている。伝説によれば、835年ある司教が星に導かれ
て来たところ、キリストの十二使徒の一人であるジェームズ[=ヤコブ]の遺骨を見つけたとされ
るところである。聖ジェームズの象徴が、なぜホタテガイの貝殻でなければならないかは、わか
っていない。他の聖人には特定の巡礼記章がないのに、コンポステラに巡礼する人々は誰か
れも貝殻を持っており、それをクローク[そでなし外とう]に張り付けていた。
巡礼者たちは、コルニャかポンテベドラか[いずれも北スペインの大西洋の港]に上陸してお
り、いずれも聖地まで30ﾏｲﾙである。ポンテベドラには、めずらしく、巡礼者が聖母マリヤに捧
げた教会が建っている。その聖母のかぶりものには、ホタテガイの貝殻がついている。このホ
タテガイの貝殻からみて、スズ貿易や東地中海、さらに航海の守護神アフロディテ[ギリシャ神
話の愛と美の女神で、ローマ神話のヴィーナス]とのあいだの結びつきがあることは、ほぼ確か
なことである。アフロディテは海の泡のなかから生まれたとされるが、ボッティチェリ[1444?-
1510、イタリアのルネサンス期の画家]の作品では、ほかでもなく、ホタテガイの貝殻の上に立
っている。多くのところで聖母はアフロディテまたはヴィーナスに置き換えられてきた。惑星ヴィ
ーナスを配した聖母像は、海の星ステラ･マリスSterra Marisと呼ばれている。信仰は物ではな
いので運賃はいらないが、海運史のなかで、巡礼者たちが重要な積荷であったことにはかわり
ない。
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