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船員労働問題研究の回顧と課題

篠 原 陽 一

目次
 eまえがき
 1 はしがき
 2 産業労働問題研究の意義
 3 船員労働問題研究の回顧
 4 船員労働問題研究の課題

eまえがき
 この初期の論文は生煮えであるが、一過程としての意味のほか、当時の研究状況を示すも
 のとして掲載した。必読文献では、さらにない。

1 はしがき
(1)  海上労働科学研究所の目的
  海上労働科学研究所は、その寄付行為がしめすように、「海上労働に関する科学技術の総
 合的調査研究」をおこなうところとされている。すなわち、そこでは、研究者が個別に分化した
 研究分野にしたがって、任意に研究対象をえらんで、研究活動をおこなうというしくみをとろうと
 はしていない。船員労働という特定の研究対象があらかじめ設定され、そのためにいくつかの
 研究分野が参加させられ、それぞれの研究活動を横にならべ、しかも調査という方法をもちい
 て、なんらかの研究活動の総合化をはたそうとしている。すなわち、研究活動の分化と総合
 を、特定の研究対象をえらぶことによってはたそうという、きわめて高度な研究システムを予定
 している。そうであるとするならば、まずあらかじめ船員労働の総合理論が展開され、研究対
 象の領域と区分の枠組みが設定され、そしてそのための関連する研究分野の序列や配置を
 ふくむ研究活動の方法論がうちだされていることがのぞまれる。
  このような船員労働に関する理論と方法は、その研究活動に参加する研究分野の相互活動
 の成果にあいまって、はじめて形成されうるものであることはいうまでもない。そうであるなら
 ば、それぞれの研究者はそれぞれがもつ研究分野において、船員労働の総合研究の部分と
 して要請されるであろう研究課題を想起し、その相互活動のための選択肢を用意したうえで、
 研究活動をすすめなければならないだろう。しかしながら、そのためにも個別に分化している
 研究分野において、その一般理論と方法について一定の研究業績をあげることが前提となる
 し、現在の学界状況からみてそれなくしては一個の研究者として評価されないであろう。いま、
 船員労働の総合研究のために組織されている研究者の数と相互活動が、十二分に擁護され
 ているばあいはまだしも、それがおおむね限定されているばあい、個々の研究者に期待される
 研究活動の量と質はいやがうえにもたかまろうし、いろいろな困難をともなうであろう。
  そのとき、個々の研究者にとっては、船員労働の総合研究への参画と、研究分野における
 研究領域の深化という、2つの課題をいかに1つの研究活動のなかで、どのように達成しうるで
 あろうか。こうした研究活動のなやみは、どのような研究領域にぞくする研究者にも共通するも
 のであり、その解決は社会的な研究体制にかかわってこよう。そこまでつきつめなくても、その
 まえに個々の研究者がなしうる研究活動の範囲を限定し、船員労働の総合研究をめざす相互
 活動のなかで それぞれの研究分野における一般理論と方法の適用とその限界、特定の研
 究対象における特殊理論と方法の概括、そして一般理論と方法への高次な具体化への展望
 を、それなりに構想すべきであろう。要約していえば、船員労働という特定の産業労働の総合
 研究とはどういったものか、その総合研究においで特定の研究分野にいかに参加しうるか、そ
 のことによってそれぞれの研究分野における業績はどのようにたかめうることができるか、と
 いう問題が提超されてくる。
(2) 労働問題研究の縦と横
  船員労働は、社会的労働の一つとして、人間と自然との質料交換の一過程としてだけでな
 く、人間と人間との社会的な一過程としてもおこなわれている。そうであるかぎり、後者に主とし
 て着目する船員労働問題の社会科学的研究が、船員労働の総合研究にとって、不可欠な構
 成部分であることはいうまでもない。一般的に、労働問題の社会科学的研究は、労働問題が
 複雑で高次の運動諸形態をとっているため、それにかかわる理論と方法も、その運動形態の
 次元にそわざるをえない。戦後日本の労働問題研究は、経済学のみならず、最近では部門経
 済学、政治学、社会学、心理学、歴史学など社会科学をはじめ、自然科学からも接近がみら
 れるようになった。こうした労働問題の研究分野の横系列の拡張は、現代日本資本主義にお
 ける労資対立のはげしさと、労働者状態の悪化にもとづく、問題形成の多様さと問題解決の複
 雑さを反映している。
  労働問題研究の横糸列の拡張は、労働問題の具体的な解明を前進させるものであることは
 あきらかであり、いまさらながらに経済学以外の研究分野の参加をもとめることは時期を失し
 ている。むしろ、労働問題の総合研究は政治経済学を中心に、どのような方法論的な整序に
 より、どのように達成していくかが、現実の課題となっているといえよう。現代日本の労働問題
 は、日本資本主義の発達の特殊性−その対米従属性、「高度成長」、高蓄積機構、そのため
 の国家独占資本主義的政策−につよく影響されて、産業部門、企業規模のあいだで不均等な
 発展をとげており、したがってその解決もまた階層化、特殊化をとげている。こうした問題状況
 は、労働問題研究が研究分野の横系列の拡張のみによって、その総合研究を達成しうるかど
 うか、疑問なしとしないのである。
  この労働問題の縦系列の研究は、横系列の拡張からくる個別分散にたいして、研究対象を
 産業・企業・職業といった具体的な次元を設定することにより、労働問題の総合研究の水準を
 たかめうるにちがいない。したがって、労働問題の社会科学的研究は、研究分野を網羅する
 横糸列の拡張と、研究対象を限定した縦系列の深化によって、よりいっそう総合研究の成果
 をおさめうるものとおもわれる。その点、産業別の労働問題研究は、基幹産業を中心にじょじ
 ょにすすみつつあるが、その研究の必要性はあまり認識されていないかのようである。そこ
 で、労働問題の総合研究とはどういったものであるか、その方法と体系はどのようなものであ
 るか、そして労働問題研究において産業別研究はどのような意義をもつかという問題が提起さ
 れてくる。
 いままでのべてきた問題のすべてについて、全面的な見解をのべるだけの準備や力量をもっ
 ているわけではない。ここではさしあたって、産業別労働問題研究はどのような意義をもつか
 をふれ、ついで船員労働問題研究を回顧し、最後にその今後の研究課題について指摘するに
 とどめたい。

2 産業労働問題研究の意義
(1) 労働問題の構造と諸科学
  労働問題は、資本主義社会の成立とともに発生し、その経済成長とともに、その規模と程度
 を拡大してきた。そして、労働問題は、資本(運動)・資本家に対置される賃労働・労働者にか
 かわる、社会現象としてあらわれた。しかし、労働問題が社会的な関心をよぶようになったの
 は労働者の貧困が個人的で一時的な問題ではなく、大衆的で持続的なものとみなさざるをえ
 なくなってからである。そして、労働問題が社会的になんらかの解決をせまられるようになった
 のは、労働者階級が資本家階級とその政府に大衆的に反抗するようになってからである。そ
 こで、労働問題研究はこれら労働者階級の貧困と反抗という社会現象を経験することからはじ
 まり、その研究課題として労働問題の社会的性格から、労働問題の歴史的な必然性や社会的
 な構造性ばかりではなく、さらに労働問題の社会的な解決についてもとりあげざるをえなくなっ
 た。労働問題研究は、社会科学のいわば実践的な研究分野として自立するよう、資本主義社
 会がうながしてきたといえる。
  労働問題研究が、労働問題をすぐれて労働者の問題としてとらえるかぎり、それに応用され
 る科学理論は人間の社会的存在を規定する人と人との経済的な関係や側面を研究する経済
 学のみでは、不十分である。労働者を、経済的・政治的・思想的な社会的存在として把握する
 ならば、労働問題研究の完成地点は社会科学的な総合研究におかれざるをえない。それが、
 歴史的事情から社会諸科学の個別研究として発達することはさけられないとしても、なんらか
 のかたちで総合化をめざさざるえないであろう。しかも、労働問題研究は労働問題の運動や形
 態を規定する法則関係を、理論として構成すればたりるものではない。労働問題が、人間生活
 に直接的な影響をあたえる、現実的・具体的な事実関係をもつ、社会的に解決されるべき問
 題であるかぎり、その研究は労働問題の社会的解決について、なんらかの予見、展望、政策
 を提示しなければならない。そこでは、理論研究と政策研究が共存しあっており、それらは論
 理的に統一・整序されていることがもとめられる。そのことは、労働問題研究に参画する諸科
 学理論が、その研究過程のなかでつねに検証されるとともに、その研究成果が労働問題の社
 会的な解決過程でも検証されることもふくむものであることをしめしている。
  このように、労働問題研究は労働問題という研究対象の性格からいって、社会科学的な総
 合研究として、かつ理論研究と政策研究の統一として達成されなければならないという方法論
 的課題をもっているといえよう。そのためには、それに参画する諸科学の序列・配置があきら
 かにしなければならない。それはさしあたって、社会科学の科学体系にしたがえば、科学的な
 歴史哲学を導きの糸としながら、まずその基礎科学として経済過程と政治過程をあきらかにす
 る政治経済学をすえることにある。労働問題研究の基礎科学としての政治経済学は、資本主
 義社会の構造的・発展的な経済関係から、労働問題の発生と発展、性格と形態を一般的・抽
 象的に把握し、経済構造に規定された政治的・思想的な人間関係から労働問題を具体的・個
 別的に説明し、さらに労働問題が経済構造と政治・思想関係との相互作用のなかで、どのよう
 な社会的な解決がなされるかを展望することにある。そして、部門経済学、政治学、法律学、
 社会学、心理学などの関連諸科学は、労働問題の諸側面のなかからそれぞれ個有の研究対
 象を選択して接近し、基礎科学の研究活動と相互補完の関係にたつことによって、労働問題
 研究を総合研究たらしめる役割をになうといえよう。
  労働問題の理論研究は、労働問題を経済構造と政治的・思想的な諸関係のなかで、具体的
 な運動形態をもつものとして論理的に説明することにこあるわけであるが、そのことはすでに
 労働問題の社会的解決が社会発展の法則関係としての意味あいをふくんでおり、労働問題の
 政策研究へと容易に転化移行することができる。しかし、政策は主観的な価値判断にもとづく
 もので科学研究の対象となりえないとか、理論と政策との移行転化をみとめないという議論も
 あるが、それらは理論が客観的な法則でもって構成され、それによって政策が基礎づけ、方向
 づけられるという論理で反ばくされるにしても、労働問題が多様で複雑な形態をとるにしたがっ
 て、理論と政策、それらと現実との検証関係が、かならずしも一義的な関係をとるとはかぎらな
 い。そのことは、独占資本主義段階における労働問題、たとえば現代「合理化」問題にみるよ
 うに、その理論的な解明は複雑にならざるをえず、その克服の政策も多面的になっているた
 め、研究成果の実践的な検証もまたむずかしくなっているからである。この難関をのりきる方
 法は、いまみてきた労働問題の研究分野別研究であるとともに、職業別研究が意義をもってく
 るのではなかろうか。それらをつうじて、労働問題の社会科学的研究の総合化と具体化が、は
 じめて達成されるのではなかろうか。
(2)  労働問題発生の産業別性格
 社会の生産力は労働の分割=分業とともに向上する。労働の分割は、その生産力の発展の
 もとでさらにすすんで、それを逆にうながしていった。いっはう、生産力の発展は生産手段を所
 有する搾取階級とそれに労働を搾取される被搾取階級とに人びとをわけ、それにともなって労
 働の分割は精神労働と肉体労働の対立、男性と女性の対立、都市と農村の対立というよう
 に、対立的な性格をもつようになった。資本本主義的生産様式の確立とともに、労働の分割は
 社会的分業と工場内分業の形態をとりながら促進していった。資本主義の創成期の社会的分
 業は、その生産力が十分に発展していないもとでの職業を基礎にしていた。しかし、産業革命
 とともに伝統的な職業はおおむね解体され、その自己完結性はうしなわれていった。そのた
 め、労働者は職人的な地位をうばわれ、資本にますます隷属せざるをえない部分労働者にな
 り、さらに機械体系の付属物になっていった。
 そのいっぽう、資本はその生産の集構とともに大規模な機械制工業をおこし職業的に自立性
 をうしなった労働者を職種別・職能別に多量に採用・使用するようになった。資本主義の発生
 と発展のもとで、社会的分業は資本の蓄積方法に規定された生産方法にしたがった社会的生
 産の部門、すなわち産業をうみだしていった。資本主義的な産業は、資本主義的な生産と蓄
 積、すなわち資本の労働者搾取がおこなわれる、具体的な場所となった。したがって、その意
 味で労働問題が産業革命とともに本格的に発生した歴史をふくめて、労働問題は産業別性格
 を身にまとっていたといえるであろう。それは、産業革命が繊維業から石炭業へ、さらに機械
 工業へと波及していったなかにしめされるし、また職業別組合がその連合組合へ転化していっ
 たなかにもみとめられる。
  産業資本主義段階における産業部門は、さしあたってその国の国民経済の社会的欲望を基
 礎において編成され、資本の自由な競争と移動の原理・社会的生産を規制している価値法則
 にしたがって事後的ではあるが調整されて、それぞれ発展してきた。もちろん資本主義の成立
 が世界市場を前提としていた以上、その国の社会的欲望を国民経済として自己完結的に満足
 できるように、産業部門が編成されていたわけではなく、あくまで資本の蓄積欲にかなうものと
 して不釣合いに編成されていたことはいうまでもない。しかし、独占段階にくらべれば、国民経
 済における産業部門の構成は、それほど不釣合いは小さく、またその発展も不均等ではなか
 ったし、全体として変動もはげしくなかった。
  資本主義が独占段階にはいるとともに、社会的分業はますます大規模に促進するとともに、
 その対立関係をつよめていったが、その一環として産業もその数や編成、そのあり方に大きな
 変動がみられるようになった。独占資本は、生産と資本の集積・集中を基礎として、生産力の
 社会的性格をよりしいっそうたかめながら、資本・労働・技術・市場を独占していった。少数の
 独占体があらゆる産業の動向を左右するようになり、資本の自由な流出入は阻害され、資本
 の競争条件は格差がみられるようになってきた。これにより、少数の独占資本が戦略的に支
 配する産業部門とそうでない産業部門にわかれてきた。それにしたがい、産業部門のあいだ
 に不均等な発展と格差構造がおこり、新しい技術進歩をとりいれる産業部門の生成と飛躍、そ
 れにともなう伝統的な産業部門の停滞と駆逐がおこり、産業部門のあいだのはげしい競争と
 交代がみられるようになった。さらに、独占資本主義の腐朽性のあらわれとして、不生産的な
 産業部門が寄生的に肥大化し、そして資本輸出にともなう国民経済における産業部門の自己
 完結性はますますうしなわれ、奇型的な編成をとるようになってきた。これらの傾向は、国家独
 占資本主義的政策によりいっそうつよまっている。
  この独占資本主義段階にかける産業部門のたえざる変動は、労働問題を一般的にはよりい
 っそう激成化させるばかりでなく、特殊的には産業別性格をつよめないではおかなかった。こ
 の労働問題の産業別性格は、新しい技術進歩の採用にともなって、それぞれの産業部門の生
 産・蓄積方法が特殊化・階層化することによって、つよまってきた。独占資本の計画的な工場
 内分業によって、労働はますます細分化されて.その労働移動性はたかまり、産業部門やそ
 のもとにある企業の成長と停滞にしたがって、その労働力ははげしい吸引と反発をうけるよう
 になってきた。労働者は労働者政党の援助をうけて、産業別組織を意識的に採用し、産業ゼ
 ネストをもって独占資本と対抗するようになった。それにたいし、独占資本は独占利潤をてこと
 して、労働運動に日和見主義をもちこむことにより、それに対抗してきた。この政策は、独占資
 本が戦略的に支配し、かつ労働者が大量に組織されている重化学工業部門において、特徴
 的にみられる。これら主要な産業部門における労資の攻防が、労働問題のあり方に大きなか
 かわりをもつようになった。
  戦後日本においては、日本経済のアメリカへの従属と、アメリカの日本への経済侵略、6大
 金融資本の産業支配・競争関係、独占企業と国家とのゆ着、そして日本の資本輸出のもと
 で、鉄鋼・自動車・電機・造船・石油・石油化学などの産業部門の飛躍的な拡大、それを中心と
 した大規模な産業再編成がみられてきた。そのいっぽう、農業・石炭・繊維・非鉄金属などの
 産業部門においては、その切り捨て、停滞がみられるようになった。しつまや、日本独占資本
 主義の「高度成長」の結果としての独占企業の海外進出と軍事産業の復活は、いままでよりも
 いっそう、戦略産業・成長産業の飛躍的な集積をうみだし、そのかたわらで独占資本の蓄積欲
 をみたしえない産業部門の切捨て、再編成がすすめられ、産業部門のたえざる変動やその編
 成の奇型化がすすもうとしている。
  戦後日本の労働問題もこうした日本独占資本主義の態様を反映して、産業別性格をもつよ
 うになってきた。独占資本が支配する産業部門とそうでない部門における労働力・労働条件の
 格差構造が定着し、そのもとでの賃金の全体的な抑制と、労働力の効果的な再配分がおこな
 われてきた。独占資本は、国民的な低賃金構造を維持するため、農業切捨て政策を実施して
 非独占的な産業・企業に低賃金労働力を滞留させ、さらに人事院勧告・公労委裁定をてことし
 た賃金抑制機構をもちいてきた。また、戦略・成長産業にかける労働運動を抑圧するために、
 重化学工業部門を中心にその頂点にたつ大企業労働組合を企業内組合にとじこめ、特権的
 職制層・会社派組合幹部を育成してその右傾化につとめてきた。
  こうした組織労働者の運動の後退を背景として、労働者の賃金闘争にたいして、大企業組合
 の妥協的な解決をてことした、低額の春闘場づくりにつとめてきた。さらに、労働運動を産業別
 に分断し、また産業政策をすすめるために、公務員法・公労法・港湾労働法・船員法・炭坑離
 職者関係法など、産業別労働法規をつくってきた。
  そのいっぽう、労働組合運動においては、産業別組織・産業別統一闘争が運動原則として、
 つねづね提起されてきた。さらに、労働組合が産業の「高度成長」促進の政策であれ、産業の
 民主的改革の政策であれ、積極的な産業政策をもつことがもとめられてきた。
  独占資本主義段階における労働問題は、独占資本の生産・資本の集積と産業部門のたえざ
 る変動を媒介として、ますます展開されるようになり、労働問題にかんする労資の対応・解決も
 まずさしあたって、産業別性格をとるようになってきた。しかし、そうしたことは生産の巨大化、
 生産の社会的性格のつよまりと、少数の独占資本による資本主義的所有と取得との矛盾が、
 労働問題としては産業別性格をよりいっそうまといながらも、それを通じて国民的・社会的な規
 模で激成化させていることのあらわれであるといえよう。そこで、われわれは労働問題の社会
 科学的研究の重要な環として、労働問題の産業別研究の緊要性を強調するものである。そし
 て、産業労働問題研究は労働問題の総合研究の構成部分として、その水準をたかめ、また理
 論研究と政策研究の相互移行、そこでの検証を容易にするため、ぜひともとりくまなければな
 らないと考える。

3 船員労働問題研究の回顧
(1)  小門和之助氏の特殊性論
  戦後日本における船員労働問題の社会科学的研究は、小門和之助氏にはじまる。小門和
 之助氏の研究活動は、戦後から1960年にいたる時期であるが、その研究業績は『海上労働問
 題』(日本海事振興会.1955)および『船員労働問題の国際的展望』(同前、1958)におさめら
 れている。その研究活動は、船員労働政策の独自性を根拠づけ、その具体的施策を摘出す
 ることにおかれていた。小門氏は「船舶の航行安全と運航能率の正常な維持をはかるため
 の、海上労働力の保全という、政策上の焦点は、だから、まずもって、船員がその職業生活を
 つづけるかぎり、内在的にあらわれるところの、この人間性阻害現象を、できるだけ緩和する
 ことに、向けられなければならぬ」(『海上労働問題』p.9)とのべ、船員政策の独自的な展開を
 主張した。そして、それを論証し、また施策提案をおこなうために、船員の雇用、賃金、労働時
 間、乗組定員、有給休暇、船員保険、船員教育について、それらの歴史と実態の分析、外国
 船員との比較などをおこなってきたのである。
  小門氏が、船員労働の特殊性を人間性阻害現象であると措定したことは、船員労働問題を
 緩和しようとする立場にたつ人びとの共鳴をえた。それからみちびきだされた船員政策や、船
 員労務管理にかんする具体的施策は、いまなお現実的な意義をもっている。このようにして、
 小門氏が船員労働問題研究の興隆をうながしたことはたかく評価しなければならない。さら
 に、小門氏の研究史的な意義をのべれば、戦後日本の海運産業が国家援助のもとに、外航
 再進出をはたした時期にあたって、海運企業は船員法秩序のもとでの船員労務管理のあたら
 しい理念と体系をもとめていた。そのときに、小門氏が戦前における船員の無権利状態の再
 現をふせぎ、国際水準での船員労働の適正形態なり適正管理を提起したことにある。
  小門氏の船員労働問題研究は、そもそも理論研究そのものではなく、政策研究であって、し
 かも政策提案の学たろうとしていた。そのため、政策提案の理論として通説となっていた労働
 力保全説を採用した。そして、船員政策の独自性の主張の根拠として、船員労働の特殊性
 (海上生活に起因する人間性阻害現象)においた。これらは、船員が賃金労働者という特殊歴
 史的な社会的存在という性格を排除するものであった。こうした研究姿勢は、すでにのべたよ
 うに、いっぽうで船員労働問題研究をうながす契機となったが、その研究の体系化を阻害し、
 一般理論と特殊理論との相互移行を不可能とし、それをたんに特殊な研究分野にとじこめてし
 まう危険性をはらんでいた。小門氏の研究業績は、日本資本主義経済が高度成長段階には
 いる以前における産業労働問題研究の−つとして、その産業労働における戦後民主主義理
 念、ないしは近代化理念の定着をめざしたものとして、またそれだけに理論研究と結びつきに
 とぼしい政策提案の研究としての制約をもっていたといえよう。
(2) 笹木弘氏の特殊性論
  小門氏が、船員政策の成立・展開論理として、船員の人間性阻害現象の可及的緩和という
 船員労働者の保護概念をもったことは、戦前より運輪省において支配的であった船員と船舶
 との危険共同体の維持という、船員取締の論理とは対立するものであった。しかし、この船員
 政策の論理は笹木氏がのちに批判したように、船員政策が社会(労働)政策の特殊部分とし
 て成立してきた客観的な根拠を、歴史的に論理的に説明するものではなかった。そこで、船員
 政策研究を政策主体の政策理念のあり方の論争ではなく、船員政策の客観的で経済学的な
 側面を解明し、船員政策が船員労働の構造変化にともなって、どのような展望をもちうるかを
 説明することがもとめられた。そこに登場したのが、笹木弘氏の研究活動である。その研究業
 積は、『船員政策と海員組合』(成山堂書店、1962)、共著『海員組合の組織と団体交渉』(日
 本評論社、1966)、共編著『海員争議と海員組合』(労働旬報社、1972)においてまとめられて
 いる。
  笹木氏は、その研究活動を「船員問題研究の方法論考察」(『海運経済研究』第1号、1967)
 において、みずから総括している。その研究の枠組みについて、「(1)船員に対する国家の政策
 はいかなる内容、論理構造、必然性をもっているか、(2)船員の労働実態と労使関係にはどの
 ような特徴や独自性があるか、(3)船舶運航の本質的な意味は何であり、船員教育との対応
 はどうなるか」を、「法則的に解明することが終局的課題」とすることをのべている。そして、そ
 れら研究課題を解明する分析視角として、やはり船員労働の特殊性論をかいたのである。笹
 木氏の船員労働の特殊性論は、船員労働の特殊性を生産力と生産関係の2つ側面から分析
 することが、科学的な方法であるとし、従来の論議では「目的とする特殊性排除の内在的な論
 理を導き出すことができない」(「海運産業と船員労働の特殊性」『海技と受験』第132〜3号、
 1969)とした。笹木氏の船員労働の特殊性論をえたことによって、船員労働問題研究はその科
 学的・学問的な水準をたかめえたのである。その意味での笹木氏の研究史的な功績はたかく
 評価されているところである。
  笹木氏は、船員政策の歴史・構造を分析することによって、船員政策の成立根拠を船員労
 働の生産関係側面の特殊性、すなわち少数の船員労働者によって、巨額な資産である船舶
 が国家権力と資本家の物理的な管理から離れて、危険で「自由」な海洋において運航されてい
 ることにもとめ、船員政策の特殊的で一義的な本質が、船主、荷主、保険業の利益を保護す
 るための、国家の船員労働者にたいする特別の取締、監督と保護にあると措定したのであっ
 た。この船員政策の本質規定は.海運資本が船員労働者を使用・管理していくにあたって、明
 治以来からうちたててきた規範や秩序に、科学的で決定的な批判をあたえるものであった。そ
 して、笹木氏は社会政策の一般的な本質について、「資本主義国家の(社会)政策は、資本主
 義そのものを創出、発展、維持するためであり、労働力の保全やまして労働者のためになされ
 たものではありえない」(『船員政策と海員組合』p.79)という積極的な見解をもっていた。このよ
 うにして、笹木氏はみずからの船員政策論を、経済学的な理論研究をふまえた政策批判の学
 としたのである。
(3) 笹木弘氏の海員組合論
  笹木氏の研究業積のなかできわだっているものとして、船員政策論とともに海員組合論があ
 る。その問題意識は、海員組合がわけても産業別組織として維持されてきた、海運労資関係
 における内在的根拠を解明することにあった。そして、それは出稼ぎ型賃労働を根拠とした企
 業別組合論を批判し、それをつうじて労働組合運動における産業別統一論理を提起しようとす
 るものであった。海員組合の産業別組織としての内在的根拠について、笹木氏は船員労働の
 特殊性分析をふまえ、船員技能の横断性、労働市場の開放性、生産・収益の類似性、軍隊的
 船内規律などに経済的根拠をもとめ、また海員組合が陸上から組合員を組織・統制し、海運
 資本と協調する組合運営に政治的根拠をもとめたのである。そして、それを論証するにあたっ
 ては、海員組合が海運資本との団体交渉のうえでその産業別統一機能をどのように維持し、
 あるいは後退させてきたかを実証的に分析してきた。笹木氏が、その船員政策論や海員組合
 論をうちたてた時期は1950生代後半から1960年代前半であって、海員組合が産業別組織の
 存在理由(それはあくまで反共・労使協調的な)をたかめ、海運資本は「構造的不況」のもとに
 あって独占企業の形成がおくれ、海員組合への対抗力が不足して、海員組合の経済主義的な
 路線に依存していたときであった。そこでの研究は、海員組合が日本唯一の産業別組織として
 成立している社会的根拠と、海運資本本が海員組合と協調をたもってきた社会的状況につい
 て、かなりの程度において説明してきた。しかしながら、1960年代後半、海運産業における独
 占企業の形成と、その独占資本への従属がすすむもとで、笹木氏の論埋は海員組合の産業
 別統一基盤がよわまっていくことをしめしえても、そのなかにありながら産業別組織を維持し発
 展させうる主体的な論理と政策まで展開しえたわけではなかった。ここに、笹木氏の海員組合
 論の制約があった。しかし、さきの時期において、海員組合の産業別組織を擁護する論理が
 展開されたことは、船員労働問題の克服をめざす状況を期待する人びとにとって、その意義を
 みとめられなけれはならないであろう。
  しかしながら、笹木氏の研究成果が船員労働問題を克服する主体である海員組合の指導層
 や、その職場活動家において、また反面教師の意味あいで船員政策や労務管理の実務者に
 おいて、政策になり実践なりとして十分に反映転化されたというわけではない。そのことは船員
 労働問題研究の成果を批判的に摂取する主体的条件が、いまだ未成熟であったことをしめす
 であろうし、その未成熱さが研究の発展を制約していることをしめすであろう。船員労働問題を
 克服しようとする立場から研究しようとするものにとって、つねに労働問題の具体的な状況に
 そくして研究方法を改善し、そのうえでみずからの課題をふかめなければならない。そのため
 にもわれわれは笹木氏の研究業績が、客観状勢の発展のなかで、どのような今日的な意義と
 限界をもっているかを検討し、船員労働問題研究をどのように発展させていくかの糧としなけ
 ればならない。
4 船員労働問題研究の課題
1) 船舶の技術革新のインパクト
  船員労働問題の社会科学的研究は、きわめてわかい研究分野であって、その総括は今後
 に期すべきである。しかし、その研究活勤がどのような研究領域を消化してきたか、産業別研
 究としてどの程度の水準にあるのか、そして社会的な研究要請にどのように答えてきたかをふ
 りかえり、今後の研究活動の礎としなければならない。船員問題研究がどのような研究領域を
 消化しつつあるかは、文末に主要な著書、論文にあげておくことにとどめる。それらを散見する
 とき、その対象領域はけっして狭くはないし、部分的にはかなりの深まりをみせている。船員労
 働問題研究は、現代の基幹産業である鉄鋼、電力、造船、石油、電機などの産業別研究の水
 準を、かなり上廻るところにあることは想像にかたくない。しかしながら、特定の産業労働問題
 研究として、ある程度完成の状態にあるかどうか、研究に対する時代の要請にこたえてきたか
 どうかはまだまだ疑問としなければならないだろう。
  戦後日本の船員労働問題研究は敗戦直後よりはじまったわけであるが、その時期において
 は戦前からの前近代的な船員労働関係を実態調査、分析をつうじて批判し、船員労働の近代
 的合理主義的な方向を追及したり、また船員法の労働保護部分を擁護することにおかれてき
 た。この時期、船員労働問題研究は意欲的な研究姿勢がみられ、積極的な問題提起がなされ
 ていたし、それはひじょうな新鮮さをもっていた。それに、戦後の民主主運動、労働運動の高
 揚に対応したものであった。その後、日本海運が外航海運に復帰し、その資本蓄積と運航技
 術は、漸進的な発展をとげていき、海運労資は協調関係をたもってきた。こうした微温的な状
 況を反映して、この時期の研究は海員組合の現在のあり方を説明するのにとどまり、また海
 運企業に実務的な管理方法を提示したりする、本質の追及をさけた形態の論議にとどまるも
 のであった。しかし、この時期船員労働問題研究が、その研究領域をひろげていったことはあ
 らそえない。
  日本海運は1960年代にはいって船舶の技術革新にとりくんだ。その結果、大型船化・専用船
 化・自動化船化とよばれるように、運航技術にはかなりの変化がおこった。また、1960年代後
 半における海運集約再編成の進行によって、日本海運は中核6社を頂点とする産業支配の体
 制がきづかれるとともに、海運産業の独占資本への従属体制もすすんでいった。船員労働問
 題においても、海運資本の技術革新とむすびついた定員合埋化は伝統的に微温的であった
 船員の労働と生活を転換させていった。そうした海運産業のあらゆる側面において、かなりの
 変動がみられるようになり、船員労働問題もいままでになく多様な形態をとって噴出するように
 なった。そして、その研究については、その本質的な解明とその解決・克服の方法が、積極的
 にもとめられるようになってきた。
  こうした船員労働問題の状況と、それにもとづく研究の要請からみて、いままでの研究蓄積
 にはどのような問題があるのであろうか。笹木氏の研究業績にかぎってみれば、笹木氏が船
 員労働問題研究の基本視角とした船員労働の特殊性を、資本主義的生産様式の2つの側面
 から分析したことは、船員労働閉鎖の特殊的な発生と、その産業内的な解決のあり方を解明
 していくには、一応有効であった。しかし、現在における船員労働問題を具体的に認識していく
 にあたっては、そうした分析視角にかぎっていて十分であろうか。
(2) 海運産業をめぐる構造分析
  現代の労働問題は、資本主義の全般的危械のもとで、全産業的・全国民的な共通性と連関
 性をもって激成化している。しかも、すでにのべたように、現代の労働問題の激成化は その
 産業別性格のなかで、より具体的な形態をとるようになってきている。こうしたなかに、船員労
 働問題を位置づけるとすれば、どのような分析視角が必要となってくるのであろうか。それはい
 うまでもなく、現代の労働問題の激成化の根源である独占資本の運動と、その一環であり、そ
 れに媒介され、船員労働問題の形態を規定している海運資本の運動を分析していくことであ
 る。いままでの船員労働問題研究のなかで、この分析視角がもっとも欠如していた。したがっ
 て、海運資本が現代日本の資本主義的経済関係のなかで、どのような役割と地位をもってい
 るかを追及することなくしては、船員労働問題を本格的に克服していく展望はえられない。
  笹木氏は、船員労働問題を克服していく役割をになっている海員組合を、長年にわたって追
 及してきた。その海員組合論は、すでにみたように、海員組合が産業別組合として形成、維持
 されてきた経済的な基盤を、船員労働の特殊性論を中心にして説明し、その海員組合の経済
 的な運動を、産業別組合の戦術の一つと評価してきた。しかし、笹木氏も指摘しているように、
 海運集約とその後における資本の集積・集中のなかで、海員組合の産業別統一基盤はうしな
 われつつあり、海員労資関係は企業別分化の方向さえみられはじめている。ところが、笹木氏
 の海員組合論からは産業別組織の解体過程は説明できても、現在における産業別組織が、
 海運資本の企業別分断の攻勢にたえ、階級的に再生されていく論理をひきだすことはできな
 い。それは、笹木氏の海員組合論が労働組合の経済的な成立基盤を重点に分析し、その枠
 のなかでの運動主体との対応関係をとくに摘出したにとどまったからである。その意味で、笹
 木氏の海員組合論は産業別労使関係論としては一定の結論をえたといえるが、産業別労働
 組合運動論として今日的な意義をもつといえるであろうか。
  その一つのあらわれとして、海運資本が人べらし「合理化」をより高次な段階におしあげるた
 めに、船員職種の再編成をいそいでいるなかにあって、海運資本の人べらし「合理化」の本質
 的論議をぬきにして、船員職種の統合化案(船舶士・員構想)に対置する船員職種の専門分
 化案を提起していることにしめされている。このことは、笹木氏の船員労働問題研究が経済主
 義的・技術主義的な傾向をもっていることをしめしており、船員労働問題を克服する立場にお
 ける研究を俗流化させるものといえよう。そうした傾向を克服する研究方法は、海員組合論の
 ばあいは海運労使関係をとりまく経済構造の分析をふまえ、その経済構造と運動主体の政治
 的性格との対応関係を統一的に分析していくことにあり、より一般的には海運産業を経済社会
 構成体の部分として、政治経済学的に分析・総合していくことにあるはずである。その意味か
 ら、まず第1に海運産業が現代日本の資本主義の発達段階と経済構造のうえで、どのような生
 産的な役割をになっているか、海運資本が資本競争と国家機構のなかで、どのような経済的
 な地位をしめているか、そして海運労資はどのような社会的な行動をとらざるをえないかという
 海運産業の政治経済学的な分析を達成することがもとめられる。
(3)  船員の労働者状態の分析
  第2には、船員労働問題研究の基礎的で始点、終点をなすといえる船員の労働者状態の分
 析が、このさい強調される。船員労働の特殊性の重要な側面とみなされている労働力再生産
 の不完全性が、今後の船員政策の展開機軸といわれ、また船員の経済的要求の多様化が今
 後の海運労資関係を規制しようとしているとき、海員組合運動との関連において、船員の労働
 者状態の分析は緊急な研究課題であるといえよう。そのことは、労働問題研究が事実認識に
 より問題を発見し、その内在的な問題解決の過程を摘出しようとするものであるなら、なおさら
 のことである。いままで船員の労働者状態はいわば自明のことくにみられ、その分析はかなり
 立遅れている。最近における海運資本の蓄積過程と、それに対応した船員の労働条件と生活
 条件は、おおきな変化がみられており、それにかかわる研究がつよくもとめられている。この
 船員の労働者状態の分析は船員の多様な経済的要求の根拠をあきらかにし、その解決のた
 めの過程と組織のあり方に展望をあたえるにちがいない。
  1964年の海運集約再編成を契機として、船員労働問題はひじょうにするどいかたちで、その
 複雑さ、深刻も多様さをもちつつある。それにともなって海運労資関係や船員政策の主体者に
 おける実践的な政策の理念と施策は新しい観点にたたざるをえなくなっている。その点から
 も、船員労働問題の理論的、政策的な研究によせられる期待はますますおおきくなっていると
 いえるし、その立場のあいまいさは許されなくなってきている。ことに、船員労働問題をなんら
 かの形で克服していく立場にたつものにとって、海員組合の1965〜66年の大ストライキから
 1972年の長期ストライキにみられる、伝統的な反共・労使協調主義の動揺と、下部組合員運
 動の前進をどのように評価するかは、とくに重要である。また、海運資本における外国用船の
 拡大、在来船の海外売船、外国船員の利用など市場支配と資本輸出の進行のなかで、船員
 労働問題が深刻な様相を呈しはじめているとき、その研究はよりいっそう体系的かつ全面的な
 ものとなっていかなければならない。
(4)  産業労働問題研究の枠組み
 いまここで、それらを分析することはできないが、この序論のしめくくりとして、産業労働問題研
 究の枠組みを提起しておきたい。
 産業部門資本の側面からいえば;
  (1) 産業部門資本の生産方法と蓄積方法
  (2) 産業部門資本の企業形態と企業活動
  (3) 産業部門資本の市場構造と景気変動
  (4) 産業部門資本と国内外資本との競争関係
  (5) 産業部門資本と国家独占資本主義との関連
 を、主要な研究課題として展開されるべきであろう。
 産業賃労働の側面からいえば;
  (1) 産業労働者の素材的・価値的な形成
  (2) 産業労働者の雇用と就業の構造
  (3) 産業労働者の労働・生活過程における労働者状態
  (4) 産業労働者の政治的権利と労働運動
  (5) 産業労働者に対する労務管理と社会・労働政策
  (6) 産業労働者の社会意識、イデオロギー状況
 を、主要な研究課題として展開されるべきであろう。
  そこでは産業部門資本・賃労働関係の特殊的な側面、要因、傾向を摘出し、さらに資本主義
 的生産の総過程と労働運動の全体的傾向との関連づけをおこないながら、分析から総合への
 過程をたどっていくこととなろう。こうした産業労働問題の研究方法は産業部門資本にかんす
 る資本蓄積論と労務管理論、産業賃労働にかんする労働者状態論と労働運動論、そして独占
 資本家政府にかんする経済政策論と社会・労働政策論というかたちでもって、構成しなおすこ
 ともできるであろう。
 <付記>
 船員労働問題研究の主題な著書、論文(本文中の掲載文献はのぞく)
 1.雇用
  小門和之助「予備員制度の理論論的考察」(『海上労働』(7)5、4〜12、1954)
  山本泰督『船員の雇用制度』(神戸大学経済経営研究所、1967)
  笹木弘「海上労働力の流動化」(『海上労働』17(6)、9〜16、1965)
  篠原陽一、玉井克輔「船舶の自動化の進展に伴なう船員労務管理システムに関するる研究
 ―運航技術変化に適応する船員需給問題」(『東京商船大学研究報告』21〜23、21〜49、51
 〜89、95〜131、1970〜72)
 2.船員教育
  笹木弘「技術革新にともなう商船大学教育の現状とその教育効果に関する研究」(『東京商
 船大学研究報告』13、49〜98、1963)
  篠原陽一「船員教育の基本的問題」(『海運』491〜3、37〜45、128〜133、118〜132、1968、
 8〜10)
 3.労働者状態
  西部徹一『日本の船員』(労働科学研究所、1961)
  篠原陽一「船員労働の生産性向上と船員の状態」(『海運』431、70〜75、1963)
  柴田悦子「船員の賃金体系について」(『海運経済研究』2、99〜118、1968)
  山本泰督「海運業の企業間賃金格差」(『海運産業研究所報』56、5〜15、1971、2)
 4.労働過程
  地田知平『海上労働の分業と協業』(海運研究所研究叢書、1960)
  佐々木誠治『船内労働の実態』(神戸大字経済経営研究所、1964)
  『海上労働調査報告』l−21(海上労働科学研究所、1948〜71)
 5.労働環境
  小石泰道他「船員における疲労調査資料」『労働科学』44(1142〜57、1968)
  神田寛『船舶の居住性能』(成山堂書店、1964)
 6.生活・福祉
  笹木弘「船員福祉施設の理論的な諸問題J(『海上労働』13(3)、27〜35、1960)
  神田道子「船員家族の現状」(『労働科学』39(7、9、12)、40(2)、41(6、8)、1963〜65)
 7・技術革新・合理化
  篠原陽一「海運産業、船員労働の史的展開」(『東京商船大学研究報告』13、1〜48、 1963)
  笹木弘「船舶運航技術の発達と船員労務問題」(『海運』460、70〜75、1966)
  小石泰道「自動化船運航をめぐる技術的問題」(『労働科学』42(5)、 365〜375、 1966)
 8.労務管理
  大須賀哲夫「船内労働における人間関係に関する調査研究」(『海上労働調査報告』9‐10、
 1958〜59)
  藤島良雄他『船員の労務と管理』(成山堂書店、1971)
  篠原陽一「船員労務管理の変容と特徴」(『海運産業研究所報』63〜64、14-23、16〜25、
 1971、9〜10)
 9.海運労資
  土井智喜『海上労働講座』(成山堂書店、1967)
  青木薫「海員の賃金体系闘争」(『労働農民運動』47、80-89、1972.2)
  長谷川晃他「海員組合の労働協約闘争」(同前、55、118〜132、1970、10)
  長谷川晃「産業別組織として海員組合」(同前74、45〜53、1972、5)
 10.船 員 法
  笹木弘「船員労働関係の諸問題」(『新労働法講座8』有斐閣、357〜371、1967)
  篠原陽一「新しい型の船員法への胎動」(『海運』517.37〜43、1970、10)
<参考文献>
  『社会政策と労働運動』(有斐閣、1966)
  古川哲「独占段階における再生産と恐慌」(『マルクス経済学体系』、有斐閣、1966)
  笹木弘「産業別組合と労働運動」(『戦後労働運動の展開過程』、お茶の水書房、1968)
  伊東岱吉編『工業経済論』(有斐閣、1968)
  真田是『労働問題入門』(日本評論社、1968)
  世界経済国際関係研究所編『現代独占資本主義の政治経済学』(協同産業出版部、1972)

初出書誌:産業労働問題研究序論、『海上労働科学研究所年報』6、1973年4月

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