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▼簡単な解説▼
(1) 弁論の時期と構成
 この弁論は前327/6年に行われたとみられる。また、この弁論は、原告の他、何人かの話者
の発言で構成される。そのため、同じことが繰り返し弁論されているが、大きく3つに分かれ
る。[1-21]はそれが紛争になった経過と争いの内容が証言され、[22-37]は被告が原告に支
払うべき額が試算され、被告の商人としての不実な態度が弾劾され、[38-51]は原告が公共
奉仕を行っていることが紹介され、陪審員に公明な裁決が要望される。なお、[ ]のなかは、
当該弾劾の節番号である。
(2) 当事者
 『フォルミオン弾劾』の当事者をみると、原告は貸し手の商人クリュシッボスであり、主たる話
者となっている。被告は借り手の商人フォルミオンと、この借り手への貸し手となり、しかもと共
謀したとされる船長ランピスである。それら以外に、貸し手でありまた調停人にもなるテオドトス
がいる。
 そのうち、クリュシッボスは海上貸付を行う富裕な居留外国人(メトイコス)であり、黒海北岸
最奧のボスポラス地方に駐在奴隷を配置するの海上交易人である。数次にわたる食糧危機
に際して、アテナイ市民に公共奉仕としてでなく1タラントン(6000ドラクマ)の現金を献金したり、低価
格の大量の食糧を供給するなど多大な協力を行っている[38][39]。テオドトスも、彼と同様に富
裕な商人であるが、市民同格者あるいは市民待遇者という扱いの居留外国人(イソテレース)
である[18]。
 他方、フォルミオンは単なるあるいは来訪外国人とされる。ランピスはディオーンという人物
の奴隷であり[5]、奴隷主の指示により海上交易を行っている。このランピスは、デモステネス
海事弁論でのなかで唯一の奴隷として登場するが、その性格をめぐっては議論がある。
 なお、テオドトスはフェニキア人である[6]。これら当事者はすべてフェニキア人であるかもし
れない。なお、被告フォルミオンと貸し手かつ調停人テオドトスは、デモステネス弁論第35番『ラ
クリトス弾劾』において、貸付け立会人になっている。
(3) 金銭の貸し借り
 『フォルミオン弾劾』における金銭の貸し借りは、次の通りである。
1 原告クリュシッボスは、被告フォルミオンに、アテナイと黒海の往復航海用に使う資金として
20ムナ(2000ドラクマ)貸付ける。積荷を担保とする。その額は貸付額の2倍、4000ドラクマとする
[6]。
2 さらに、被告フォルミオンは黒海への往航だけの資金として、調停人にもなるテオドトスから
4500ドラクマ、そしてもう1人の被告である船長ランピスから1000ドラクマ借受ける。これら2人から
の借受けについて、クリュシッボスは承知していない[6]。
3 それ以外に、原告の仲間からも、被告フォルミオンは黒海への往航用の資金を借りているよ
うである。その額は600ドラクマとみられる[23、32]。
 これら金銭の貸し借りにおける1件当たりの貸付額は、他の弾劾(平均約2500ドラクマ、この額
は中産市民の財産に相当する)に比べ多額とはいえないが、多数の人々が貸付けていること
に特徴がある。そのなかで、もっとも多額なのはテオドトスの貸付金であるが、それについては
被告ランピスの貸付金ともども争いがない。
(4) 紛争の内容
 その紛争の内容は、原告の弁論によれば、次の通りである。
 被告フォルミオンは、被告ランピスを船長とする船に乗ってアテナイを出帆し、ボスポラスまで
来たものの、ポントスとスキタイが戦争をはじめていたため、持ち込んだ商品が売ることができ
なかった[8]。被告フォルミオンは、ボスポラスで被告ランピスの船から別の船に乗り移り、自分
の貨物を積んで出帆してしまう[9]。他方、被告ランピスも出帆するが、港から遠くないところ
で、彼の船が海難により喪失してしまう。その原因は積過ぎであった[10]。
 被告フォルミオンは、帰国後、原告クリュシッボスに借受金を返済せず、裁判となる。彼は、
ボスポラスで、被告ランピスに返済したとして[25]、その訴訟は無効と主張することになる。こ
れに対して、原告クリュシッボスらは、被告のフォルミオンとランピスが共謀してその返済を拒
んでいるとし、それを立証しようとしている。他方、原告の弁論だけでは明らかとはいえない
が、被告フォルミオンが被告ランピスに返済したとする借受金は、彼の船が喪失したことで、被
告ランピスが原告クリュシッボスに手渡せなくなったとしているかにみえる。
 それに当たって、被告ランピスは当初、被告フォルミオンから金を受け取らなかったとしてい
たが[11]、原告クリュシッボスから異議申し立てが提訴されると、彼ら共謀した上でかボスポラ
スでその金を受け取ったと主張するようになる[18]。
 なお、フォルミオンがボスポラスで、ランピスに渡した額は3920ドラクマとされ、それには余分な
金が1320ドラクマも付け加えられていたとされる[25]。
(5) いくつかの論点
 この紛争は、弁論をみる限り、被告のフォルミオンとランピスが共謀して、ランピスの船が海
難により喪失したこと、すなわち船が無事にアテナイに帰着しないことを根拠にして、原告クリ
ュシッボスらの貸付金を返済しない。それが詐取かどうかの争いとなっている。
 キーマンは被告ランピスである。彼が被告フォルミオンから返済金を受け取っていないという
当初の証言を翻したことが、この紛争の決め手となっている[46]。被告ランピスが金を受け取
っていなければ、被告フォルミオンは元金と罰金を支払わなければならないからである。
 その総額は原告クリュシッボスの貸付金に限り、また利子を考慮しないものの、罰金は満額
課せられるとすれば、2000ドラクマの元金に、往航、復航の別なく船積しなかったことによる罰金
5000+5000ドラクマを加えた、12000ドラクマ(120ムナ)となる[26]。それはフォルミオンがボスポラス
でランピスに渡したとする3920ドラクマの約3倍にも当たる額である。
 この被告フォルミオンの借受金の未返済は、きわめて計画的であったかにみえる。アテナイ
において、総額7500ドラクマという借受金の担保とするために船積商品を、その2倍相当額
15000ドラクマではなく、テオドトスとランピスからの往航用の借受金相当額の5500ドラクマしか買
付けず[7]、またランピスの船が海難する以前に早々と別の船に乗り換えていることでも、明ら
かである。さらに、アテナイに帰ってからでいいものを―特約があったかどうか不明ながら[32]
―ボスポラスにおいて、しかも元金と利子ばかりか、それ以上の金まで付けてまで―実際には
返済しないのだから気前よく―、クリュシッボスの仲間や奴隷にではなく、ランピスに返済したと
いう弁明は見え透いていよう。
 ここでの問題は、被告ランピスにどのような利益があるかであるが、弁論では、被告フォルミ
オンが原告クリュシッボスの貸付金[例えば、その半分1000ドラクマ]を分け与えたとされるが
[18]、そうではなく、それをはるかに上回る金で買収されたとみるべきである。それとも、ボス
ポラスにおける海難が偽装海難であるかである。
(6) その他の注目点
 テオドトスは、被告フォルミオンに往航用の費用を貸付けているが、その額は4500ドラクマと多
額である。そして、彼はランピスを船長とする船に乗って航海したことになっている。そして、こ
の紛争の任意の調停人となって、原告クリュシッボスと被告フォルミオンとを取り持っている。
 このように、テオドトスはこの金銭貸借とそれに伴う航海事業、そして事後の処理に深く関わ
っている。その彼が、原告クリュシッボスと同じように富裕で地位の高い居留外国人の商人とさ
れるとき、大金を貸付けることはありえても、航海事業にわざわざ同行するといった行動や、そ
の航海事業の当事者であるにも関わらず調停人になるといった振る舞いは、きわめて不可思
議というしかない。
 なお、被告ランピスの奴隷主ディオーンが何ものかや、彼のこの紛争や被告ランピスとの関
係は不明であるが、すでにみたように被告ランピスがこの紛争のキーマンとなっていることから
みて、その不明がこの事件の真相のキーとなるかも知れない。
 例えば、被告ランピスは船を失った後、ふたたび被告フォルミオンと組んで、大型船を仕立て
て穀物を積み込み、それをアカンタスに運び、売却したことになっているが、それはどういう仕
掛けで行うことができたのか[36]。

▼弁論本文▼
[1] 陪審員の皆さん、私が要求することは、ただ一つ公正です。あなた方は善意をもって、私た
ちから聞き取って下さい。こちらが聞き手になった場合を考えて下さい(注)。私たちには弁論
術にまったく未経験であること、またあなた方の市場に長く出入りしていること、また私たちが
貸付けた商人が多数にのぼることを、よく承知していただきたい。なお、私たちはいかなる訴
訟の原告としてもあるいは被告としても、あなた方の前にいままで現われたことはありません。
(注) これは、恐らく「私たちがあなた方に意見を求める機会を与えたと同じように」という、意味合いである。
[2] あなた方は間違いなくアテナイ人です。私たちは、次のことがなければ、フォルミオンに対し
て訴訟を起こすことはなかったのです。私たちが彼に貸した資金が、船の難破によって喪失し
たと信じることができれば、訴訟を起こすことはなかったのです。私たちはそれほど破廉恥で
はないし、損害にあったこともありません。多くの人々が私たちを嘲り続けています。そのなか
でも、フォルミオンとボスポラス[注]で一緒にいた人々が、特にそうです。彼らは、貸付金が船
と一緒になくなったわけでないことを知っているはずです。私たちは、こうした人から不正を被り
ながら、それが是正されないことは恐ろしいことだと思っています。
[注] 黒海北岸最奧にあり、アテナイが友好関係を結び、穀物確保に努めていた地方。ボスフォロスともい
う。
[3] 異議申立てに関する論点は明快です。被告においても、その契約があなた方の取引所
(注)において結ばれたことを、まったく否定していません。しかし、彼らはこの契約に関わって
自分たちが負うべき債務は、合意した事項に何ら違反していないので、いまやどこにもないと
主張しています。
(注) この「取引所」あるいは「市場」という用語はペイライエウス(ピレウス)と称されることがあるが、それは
間違いなくアテナイのエンポリオン(交易市場)のことである。
[4] あなた方、陪審員が従っている法律は、そうした文言とはなっていません。それら法律は、
アテナイにおける契約とかあるいはアテナイ市場向けの契約とかにまったく関係なく、異議申
立ての提起を認めています。その人がある契約を結んだことを認めれば、いずれ契約の定め
をすべて実行すべきだと主張するようになります。それら法律は、その人にその事件の自分に
有利な面を弁護することが認めているものの、原告を被告にすることは認められていません
(注)。勿論、私はこの事件の真相を明らかにすることで、この訴訟が受入れられることを証明
してみせたいものです。
(注) 係争中だとしても、申立てがあれば、勿論起こりうる。
[5] 私はあなた方アテナイの人々に懇願します。彼らに許されるものは何か、何を議論すべき
かを検討して下さい。この方法でもって、あなた方は疑問点を、十分調べ上げられるはずで
す。彼らは資金を借り、貸付けに担保をつける契約をしたことを認めています。しかし、彼らは
ディオーンの奴隷であるランピスに、ボスポラスで金銭を支払ったと主張しています。当方とし
ては、フォルミオンが支払っていないだけでなく、彼がそれを支払うことが現実に不可能だとい
うことを証明したいと考えます。しかし、着手時に、何が起きたかについて、いくつか詳しく述べ
なければなりません。
[6] アテナイの皆さん、私はこの男フォルミオンに、ポントスに行って帰るという往復航海のため
に20ムナ[注1]を貸付け、その額の2倍に当たる貨物を担保として取ることにしました(注)。そし
て、その契約を銀行家ティッタスに持ち込みました。しかし、その契約は4000ドラクマに相当する
貨物を積み込むよう要求していたにもかかわらず、彼はあらん限りとんでもないことをしでかし
ました。そのために、彼がいまだペイライエウスにいるあいだに、しかも私たちが知らないうち
に、フェニキア人のテオドトスから4500ドラクマ、そして船主[注2]のランピスから1000ドラクマの追
加貸付けを受けていたのです。
(注) これらは争点となりそうな文言となっているかにみえる。
[注1] 1タラントン=60ムナ、1ムナ=100ドラクマ。
[注2] この船主は、ギリシア語でいう商人船主船長nauleros(ナウクレーロス)となっているが、ランピスは奴
隷であるので奴隷主に使役される船長であるので、本来の商人船主は別にいることとなる。
[7] 彼はアテナイで115ムナに相当する価格の貨物を購入するはずになっていました(注)。彼
は、債権者たちとのあいだで取り決めた事項を、すべて実行すべきであったにもかかわらず、
[船内消費]食糧を含めて5500ドラクマに相当する貨物しか購入していませんでした。彼の借りた
額は75ムナです。アテナイの皆さん、これが彼の不正行為の始まりです。彼は安全に配慮しな
かったばかりか、備品を船に積もうともしませんでした。そうしたことは絶対にしてはならないと
合意されています。
(注) いま、貸付けがすべて同じ方式(すなわち、貸付額の2倍以上の担保を取ること)でなされているとする
と、貸付けの総額は75ムナであるので、115は150と読み替える必要がある。しかし、テオドトスとランピスの貸
付けは往航のみのものであった。また、彼らはフォルミオンと一緒に航海することになっていたので、アテナ
イに居続けるクリュシッボスやその仲間よりも、低率で貸していたはずである。

合意書を取り出して下さい。
合意書
直ちに税関吏作成の登記簿と宣誓書を提出して下さい。
税関吏の入廷証言
[8] 彼は、数通の私の手紙を持って、ボスポラスに出掛けました。その手紙は、冬をそこで過ご
していた自分の奴隷に手渡すよういってありました―さらに、私が貸した額と担保を書き記しす
るとともに、商品の値踏みがすめば陸揚げして点検し、見張りをするよう指示しておきました
―。やつは私から受け取っておきながら、その手紙を彼らに手渡しませんでした。そのため、彼
らは彼が何をしようとしているのか、まったく知る由もなかったのです。ボスポラスのビジネスは
戦争のせいで不調となっていました。その戦争はパエリサディス(注)[注]とスキタイがはじめ
たものです。彼は、商品を持ち込んだものの、市場は開かれておらず、大変、当惑しました。
彼に往航用に貸した債権者たちから、彼はその返済を強く求められていました。
(注) ポントスの王。
[注] 正確には、ボスポラス地方の支配者スパルトコス家当主の3兄弟の一人。
[9] そこで、船主[ランピスをいう]が合意に従って、私の金で買った商品を船に戻すよう指示す
ると、かやつはすでに借金は完済したと言い張るようになり、かれ[クリュシッボス]のごみ商品
は値段がつかなかったので、船に戻しようもないといいました。そして、彼は船主を出帆しろと
言いつけ、自分は貨物をしつらえ次第、他の船に乗り移って出帆するといいました。

証言させて下さい。
証言
[10] アテナイの皆さん、その後、被告はボスポラスからいなくなり、ランピスは出帆したものの、
港から遠くないところで難船してしまいました。それは、彼の船はすでに述べたように、それ以
前から積過ぎになっていたからです。それにもかかわらず、彼は甲板上の積荷として、1000枚
の獣皮を追加しました。それがその船の喪失の原因となったことは明らかです。彼は、生き残
ったディオーンの奴隷とともにボートに乗って逃れることができましたが、30人以上(注)の人命
が貨物とともに失われたのです。その船が喪失したことを知って、ボスポラスは悲嘆にくれまし
た。フォルミオンがその船に残らず、またその船に何一つも積んでいなかったのは幸運だった
と、誰もが思ったそうです。
(注) この商船の乗船者は300人であったという。その船が奴隷船でもないのに、それほど多くの人々が乗
船させていたかどうか、疑わしい。そのようなむちゃなことはありえないし、ボスポラスで起きた災害を痛む
文書ともなったく一致していない。

それら証言をお聞き下さい。
証言
[11] フォルミオンはランピスに金貨でもって支払ったと明言しています(このことを注意深く記録
するよう願いします)。そこで、ランピスが難破した後アテナイへ戻って来たので、すぐさま接触
してそれら事件について質したところ、フォルミオンは私たちとの合意通りに商品を船に積まな
かったばかりか、ボスポラスにいたとき彼から金貨を受け取っていないとは言明しました。

在廷証人の証言をお聞き下さい。
証言
[12] さて、アテナイの皆さん、当のフォルミオンが自分の航海事業を他の船でやり遂げた後、
アテナイに着いたとき、私は彼に接触して貸付金の返済を要求しました。アテナイの皆さん、彼
は何はともあれ、真っ先に弁明書を書こうとはしませんでした。いまになって作成しています
が、支払ったと言い続けています。彼は、彼の側に着き、また代弁者となった人々と申し合わ
せをすると、たちまちうってかわり、別人になってしまいました。
[13] 私を欺こうとしているのをみて、私はランピスに会いに行き、フォルミオンが貸付金を返済
しないといった、振る舞いは正しくないと伝えることにしました。それと同時に、フォルミオンを召
喚する必要から、彼がどこにいるか知っているかと尋ねました。彼は付いてくるようにいうの
で、薬品店までいったところ、その男を見つけました。そこで、私は立会人を立てた上で、召喚
状を見せました。
[14] それを見せていたとき、アテナイの皆さん、ランピスは私の間近にいて、彼はフォルミオン
から金銭を受け取ったとは敢えていうともせず、また自分の言い分が正しいと思わせようとし
て、「クリュシッボス、おまえはどうかしている。なぜこの男を呼び出すのか? 彼は私に金を払
ったよ」とも、言おうとはしませんでした。ランピスは一言もしゃべらないばかりか、フォルミオン
もまた自分の商いについて敢えて語ろうとはしませんでした。ランピスは、いまでは彼が金銭を
支払ったと明言して、彼の側に立ち続けます。
[15] だがいまは、アテナイの皆さん、「なぜ私を呼び出したのか? 私は、そこに立っている男
に金を支払っているよ」と、彼がいうにほぼ間違いありません。―同時に、その言葉を裏付け
るため、ランピスを呼び出そうとするでしょう。しかし、彼らはいずれも、その場限りのいい加減
な言葉を叫んでいたのではなかったのです。

私の発言が真実であることを証明するため、呼び出しを目撃した人々の証言をお取り上げ下
さい。
証言
[16] 私が、昨年、彼に対する訴状で示した訴因を採用して下さい。それは最強最適の証拠だ
からです。その時点では、フォルミオンはランピスに金を払ったとは、まったく言明していません
でした。私が起こしているこの訴訟は、アテナイの皆さん、ほかでもなく、フォルミオンが商品を
船に積み込んだこと、あるいはランピスが金銭を受け取ったことを、ランピス自身が否定する
報告に基づいています。私が大変、鈍感で、狂っているため、こうした訴状を作成したとは思わ
ないで下さい。例え、ランピスが(彼の言葉によって、私の言い分が誤りだ証明されればともか
く)、彼が金銭を受け取ったことを認めたとしてもです。
[17] アテナイの皆さん、それ以上に注目すべき事実があります。これら男たちはある異議申立
てを昨年行っていながら、彼らの異議申立てのなかで、彼らはランピスに金銭を支払ったと敢
えて主張する勇気がありませんでした。

直ちに、その異議申立てを取り上げるよう、お願いします。
異議申立て
アテナイの皆さん、お聞き下さい。その異議申立てのなかで、フォルミオンはランピスに金銭を
支払ったと述べています。それに対して、皆さんには耳にタコとは思いますが、訴因にはフォル
ミオンが商品を船に積み込んでおらず、また金を支払っていないことを強調しておきました。あ
なた方は、彼ら自身からほんのわずかな事実しかえていないとき、それ以外にどんな証拠を期
待するのですか?
[18] 訴状が法廷に持ち込まれると、彼らはそれを調停人に任せるよう、私たちに頼んできまし
た。そこで、私たちは合意により、それを特権外国人(注)のテオドトスに任せることにしまし
た。ランピスは、調停人のまえでは好みにしたがって振る舞えると安心し、また仲間のフォルミ
オンと私の貸付金を山分けしたことで、それ以前に述べていたこととは正反対の証言をするよ
うになりました。
(注) この用語は、外国人でありながら外国人に対する特別の税金は払わず、市民が納める税金をもっぱら
納める、外国人に用いられる[注]。
[注] 居留外国人税を免除されて一時的に市民権を享受し、外国人としての保護を必要としない市民同格者
あるいは待遇者(イソテレース)をいうとみられる。
[19] アテナイの皆さん、あなた方と向かいあって偽証することと、調停人の前でそうすることと
は、同じではありません。あなた方と一緒では、激しい憤慨と厳しい処罰が、彼らを待ちかまえ
ているからです。しかし、調停人の前では、彼らは危険を感じずまた臆面もなく、自分に有利な
証言をすることができます。そのとき、私は、アテナイの皆さん、ランピスのずうずうしさを諫
め、義憤を強く表明しました。
[20] そして、私は調停人の前で、あなた方に述べていることと、同じように証言しました―すな
わち、私と一緒に最初に彼のところに行った人々の前で、彼がフォルミオンから金を受け取ら
ず、またフォルミオンは船に商品を積まなかったと述べたときと、同じように―ランピスは、虚
偽の証言と詐欺の実行により、ここにいる私の仲間に述べたことはさておくとしても(注)、すぐ
さま有罪宣告されるでしよう。しかし、彼はそう証言したとき、それが自分の意志でなかったと
述べています。
(注) この言葉はプロの着剣した護衛とみる。この説明はクリュシッボスの仲間について向けられたもので、
その仲間は次の段落のはじめで話者となっている。

その証言をお聞き下さい。
証言
[21] (注) アテナイの皆さん、テオドトスは私たちから数回にわたり事情を聞き、またランピス
が偽証していると確信した後になっても、訴訟から降りようとしなかったばかりか、私たちを法
廷に引き出しました。彼はかのフォルミオンの友人だったので、その友人に不都合な裁定を下
るのを嫌がりました。後で知ったことですが、彼自身が偽証を犯すのはまずいと思い、訴訟を
取り下げるかいなか迷ったそうです。
(注) 第2の話者は、この文章から始まると、一般に仮定されている。デモステネスの弁論第34番23節のな
かで、クリュシッボスは「私の仲間」と呼ばれており、話者の変更が事実上、認められている。
[22] さて、事実そのものに基づき、また陪審員の皆さん、あなた方の良心に照らして、ご検討
下さい。その男はどんな手段を講じてでも、負債を逃れようとするでしょう。彼は、船に商品を
積むこともなく、また適切な安全を講じないまま、港を出帆してしまいました。その一方、彼は私
から金を借りたという信用をもとに、追加の貸付けを受けています。彼は、ボスポラスで扱い品
の市場を見つけられず、往航用の金を貸した人々から逃れ隠れするのに腐心しています。
[23] 私の仲間は、彼に往復航海に対して2000ドラクマを貸しましたが、同じようにして、彼はアテ
ナイで2600ドラクマ受け取ることになっていました。しかし、フォルミオンはランピスにボスポラス
で、120キュジコス金貨(注)を支払ったと明言しています(これに十分ご注意下さい)。それは借
受金にかかる利子を支払うため、動産を担保として借りた金でした。現在、そこでは、そうした
借受金の利子は16と3分の2パーセント、またキュジコス金貨では28アッティカ・ドラクマだといいま
す。
(注) キュジコス金貨とは、キュジコスにおいて作られていた合金のコインのことで、およそ金4分の3と銀4分
の1の合金です。それは通常の金貨より約2倍重く、20ドラクマに相当し、(文書に述べられている通りなら)28ド
ラクマの価値となる。「そこでは」という単語の追加は、為替相場が異なる場所において、値段が異なることを
示めそう。[キュジコスは、プロポンティスあるいはマルマラ海南岸にある町で、トルコにあった古代ギリシア
の植民地]。
[24] あなた方に、彼が支払ったと主張する総額がどれほど大きな額であったかを、理解しても
らう必要があります。120のキュジコス金貨は3360ドラクマに相当し、あるいはた33ムナと60ドラクマ
に対する16と3分の2パーセントという利子は現地レートで560のドラクマとなり、その総額は非常
に多額です(注)。
(注) 総額は、これら2つの項目の合計であり、3920のドラクマとなる。それは、ここでは言及されていないが、
すぐ後に続く証言で述べられている。その総額(利子を含む)が、あたかも(フォルミオンの主張に従えば)ラン
ピスに支払われたかのように、話者があいまいに話していることに注意すべきである。しかし、合意はいまな
お有効であり、その総額は借受金を返済するために必要な額となっている。
[25] 陪審員の皆さん、ここにいるのは男ですか、男として生まれたのですか? そやつが2600ド
ラクではなく、30ムナと360ドラクマ、そして貸付金のお礼としての利子560ドラクマ、それらの合計
3920ドラクマを支払ったとでもいうのでしょうか。この合計額がランピスに支払ったと、フォルミオ
ンがいっている総額です。そして、その金は往復航海のために貸し出されているので、アテナ
イで[に帰ってから]返せばよいのに、彼がそれをボスポラスで支払い、しかも13ムナ[正確には
次節(注)の1320ドラクマ]も余計に返したとでもいうのでしょうか?
[26] あなたは、往航用の金を貸した債権者たちに、元金を支払うのは困難だとしています。彼
らはあなたと一緒に航海し、その支払いを強要したにもかかわらず、ここに出廷していない人
に対してはともかく、あなたは元金と利子を返済していないばかりか、合意に基づいて発生す
罰金さえ支払っていません(注)。
(注) デモステネスの弁論第34番33節にみるように、この種の契約によれば、復航の積荷をしなかった場合
5000ドラクマの罰金が課せられることになっている。勿論、そうした支払いはボスポラスでは強要できないかも
知れない。話者は、1320ドラクマの支払いは罰金としては多すぎるとみなしているが、「超過支払額」はランピ
スがフォルミオンから借りた額に、30パーセントの利子を加えた額とほぼ同じである。それに、フォルミオンは
[ランピスの船に]船積せず、ランピスに返してもいないので罰金5000ドラクマ、そして復航の船積をしないこと
で、その支払いが生ずれば[復航のそれより]少額の罰金を、彼が支払せられることになるのは当然といえ
る。
[27] そして、あなたとの合意によってボスポラスで支払いを請求する権利が生じている人々
に、恐れを感じていません。しかし、あなたはアテナイを出発する際に結ばれた合意に通りに
船積していないことで、私の仲間を最初から不当に扱いながら、彼らの請求については考慮す
ると言明するのは、なぜですか? また、あなたは貸付けが行われた港に戻ってきている現在
においても、貸し手から詐取することを、なぜあきらめないのか? そのかたわら、[褒められ
も]罰せられもしないボスポラスで、正義が要求する以上のことをしたと、なぜ主張するのです
か?
[28] 往航と復航の航海のために[金銭を]借りた他の人々は、それぞれの港からそれぞれ出
帆するとき、多くの証人を立ち会わせるよう配慮し、また貸し手の危険がその瞬間から(注)は
じまったことを立証するため、彼らを呼び出すものです。それに反して、あなたは仲間の男の
不正に満ちた証言にもっぱら依存し、ボスポラスにいる私の奴隷や仲間を証人として引っ張り
出そうとはしていません。また、あなたに責任を持たせた上で託した手紙を、彼らに手渡してい
ません。そのなかには、自分が自分に対してするように、厳しく監視を続けるよう書いてありま
した。
(注) すなわち、出帆の瞬間から。
[29] アテナイの皆さん、なぜ、当然かつ所定の順序に従って、彼らに裁定を下さないのです
か? 手紙を受け取った後で、この札付きの男がもはやそんなことはしないという根拠があると
でもいうのでしょうか。それとも、あなた方は彼自身の行いが犯罪行為であることを見抜くこと
ができないのですか? (よろずの人々と神々よ)彼が多額の借受金の全額と、それ以上の額
を返済したというなら、彼が取引所における公衆の集まりに、在廷のすべての人々、特にクリ
ュシッボスの奴隷や仲間を招いた上で、そのことを持ち出せばよいのです。
[30] あなた方全員が承知されていることは喜ばしいことです。人々は何人かの証人とともに借
金しますが、彼らは返済するときにも多くの証人が立ち会うよう配慮します。それによって、か
れらは商取引が正直だという評判を勝ちえるのです。しかし、あなたの場合はその金を往航用
にもっぱら使ったといい、またその金に13ムナも付け加えながら、往復航海用の借受金と利子
の両方を返済したというとき、なぜ多くの証人が立ち会うようにしなかったのですか? あなたが
そうしていれば、あなた以上に尊重される商人なぞ、ただ1人もいないはずです。
[31] しかし、あなたがやり放題したことについて多くの証人が出て来たので、ある罪を犯してい
たとしても、そのことについて誰もいまさら[その真偽を]知ろうとはしない、ということだ! 再び
いうが、あなたが債権者である私に直ちに支払っていれば、証人なぞ立てる必要はないはず
です。なぜなら、例え、あなたとの合意がアテナイで結ばれていたとしても、また私にではなく私
の代わりの人に、そしてアテナイではなくボスポラスで支払ったとしても、あなたとの合意は取り
消され、義務から解き放たれことになるのです。勿論、あなたが支払ったという男が死にかか
っているとか、海のかなたを航海しているとすれば、奴隷、自由民の別なく、証人として誰も呼
び出せないでしょう。
[32] 彼は、はい、というでしよう。合意は船主に現金で支払うよう、私に命じていたからですと
(注1)。しかし、それはあなたを召喚中の証人や命令の執行から守ってくれるものではありま
せん。あなたとの2つの貸付けに関する合意によって築かれた契約関係は、いまなお健在です
(注2)。彼らはあなたに不信の念を強く抱いています。しかし、唯一の証人を除けば、あなただ
けが船主に金を支払ったと言い張っているだけです。あなたとの合意が、アテナイで私のここ
にいる同業者とともに結ばれたことを、あなたはよく承知しているはずです!
(注1) この文言は、その契約がフォルミオンに、彼がアテナイへの帰り荷を積まない場合、ボスポラスでラン
ピスに金を支払う権限を与えたという、仮定での証言となっている。
(注2) その意味はまったくはっきりしない。それは、クリュシッボスやその仲間以外に、フォルミオンに貸し増
しした人がいた、ということかも知れない。
[33] 彼は、合意は「船が無事に港に戻った場合に」金銭を払い戻すようと命じていると、主張し
ています。確かにそうですが、それとともにあなたには商品を買い付けて船積するか、それとも
5000ドラクマの罰金を支払うか、とも命じています。あなたは、合意にあるこの条項を無視してい
ます。まず、船積しないことでまずその条文を破った後、自らの振る舞いによって恩に何ら報い
ず、それを放棄するばかりか、そのなかのささいな字面をめぐって紛争を言い立てています。
ボスポラスで船積せず、船主に金は支払ったと陳述するとき、あなたはなぜ船についてのあれ
これ言いつくろうとするのですか? あなたは、何も船積していないので、その危険について責
任はないはずです。
[34] まず、アテナイの皆さん、彼は船積したと主張することで言い逃れしようとしています。しか
し、この言い訳が―ボスポラスの港湾管理者の入港船記録や、同時に入港していた人々の証
言など―あらゆる面からみて嘘にみえてしまったことを知って、彼はやり方を変え、ランピスと
共謀することにし、彼に現金でもって支払ったと宣言するようになったのです。
[35] 彼は、自分の言い訳は合意がそう決めていることが支えとなっており、またわれわれが真
実をつかむことは、それぞれが独自の仕事をしているため、容易でないと考えていた節があり
ます。ランピスが私にいったことは(注)、フォルミオンにたぶらかされる前までは、念頭になか
ったことばかりだったと明言しています。しかし、彼が私の金の一部を手にすると、すぐさま正
気に立ち返り、すべてを完全に思い出せるようになったと、宣言しています。
(注) このランピスの文言を述べた時点で、話者がクリュシッボスと同席していたか、さもなければ彼が再び
話し手となったかである。
[36] さて、陪審員の皆さん、ランピスの軽蔑がもっぱら私に対するものであれば、それは別に
驚くべきことではありません。しかし、現実には、彼はフォルミオンよりもあなた方に対して、非
常に侮辱的な態度に出ています。そのために、パエリサディス[前出]がボスポラスで、アテナ
イの市場向けに穀物を輸送しようとするものに、無税で輸出できるとした法令を公表したとき、
ランピスはボスポラスにおり、アテナイ人の名において、穀物の輸出と税金の免除の許可を取
っていたのです。その上で、大型船に穀物を積み込み、それをアカンタス(注)に運び、売却し
ました―彼はフォルミオンの仲間になり、そこでわれわれの金を使って、一っ仕事したのです。
(注) [ギリシア北部の]カルキジキ半島にある町。
[37] また、陪審員の皆さん、彼はアテナイの住民であり、また妻や子供がそこにいます。法律
は、アテナイに居住するものは誰彼を問わず、アテナイ向けではなくの他の場所に穀物を輸送
した場合、厳しく処罰すると規定しています。それにもかかわらず、しかも[食糧に関する]重大
局面において、彼はそれをしでかしました。この町に暮らしているあなた方は、音楽堂(注1)の
なかで計量される大麦を使った食事[貧しい食事]をしていました。また、ペイライエウスに住む
人々もまた、船だまりや長棟(注2)に出向いて、パンの塊を受け取っていました。彼らの食事と
して1回の計量が1ガロンとなり(注3)、ほとんど死ねといわんばかりの無視された状態となってい
ました。
(注1) アリストファネス[前448?−385?、アテナイの喜劇作家]『蜂』1109によれば、音楽堂は政治家ペリクレ
ス[前495頃-429、政治家]によって大劇場の側に音楽学校として建設されたものであり、必要に応じて裁判
所としても利用された。また、ポリュデウケース[後2世紀頃の修辞家](『オノマスティコン』8.33)はそこで穀
物に関する判決が下されたと述べている。デモステネスの弁論第59番52節参照。そこで、それが穀物を配
給するために建設されたと容易に仮定しうる。
(注2) この長棟(long-porch)はペイライエウス港にある穀物用の倉庫である。
(注3) 言葉通りとすれば、1メディムノス[注]の6分の1の半分(つまり12分の1)である。
[注] なお、1メディムノスは約12ガロン[1メディムノス=小麦40キログラム、大麦33.4キログラム、1米ガロン=3.785リットル、1英
ガロン=4.556リットル]。

私の証言を立証するため、証言と法律を採用して下さい。
証言
[38] フォルミオンは、彼は共犯者や証人といった仲間の助けを借りて、私たちから金を奪うの
が当然と考えています―私たちはあなた方の市場に引き続き穀物に持ち込んでいます。ま
た、この国の3度にわたる危機に際して、あなた方が市民に奉仕するのは誰かと様子をうかが
っているあいだも、穀物不足を経験させませんでした。それだけではなく、アレクサンドロス[在
位前336-323]が[アテナイ近郊の]テーベに侵入して来たとき(注)、私たちは自発的に[公共
奉仕としてでなく] 1タラントンの現金を献金しました。
(注) 前335年。
[39] また、穀物の価格が以前に比べ上昇して16ドラクマに達したとき[前330/29年]、私たちは1
万メディイ以上超える小麦を輸入しました。私たちは1メディムノス当たり5ドラクマを正常価格と判断し
て、あなた方に分配しました。また、周知のように、あなた方もポンペイウム(注)で分配してい
ました。そして、昨年[前328/27年]、私たち兄弟は自発的に市民が穀物を買うために 1タラントン
を献金しました。
(注) ポンペイウム(Pompeium)は、[アテナイ北西にある正門]ディピュロン門[トリア門]の近くのホールのこ
とであり、パンアテナイア祭の行列に使用される服や小道具が収納されていた。

これら事実を実証する証言をさせて下さい。
証言
[40] 確かに、数々の結論は事実に基づくとしても、私たちはあなた方から名声を勝ち取ろうと
して、好きこのんで多額の金品を贈ったわけではありません。また、私たちが勝ちえている名
誉ある待遇の評判を落としてまでして、フォルミオンを誤って告発したわけでもありません。陪
審員の皆さん、あなた方が私たちを支援したとしても、それは間違いではありません。私は、ま
ずはじめに、フォルミオンがアテナイで手に入れた借受金の全額に相当する商品を船積せ
ず、次いでボスポラスで売った商品の売上金でもって、往航用の資金を貸した債権者を満足さ
せようとはしなかったことを、あなた方に提示してきました。
[41] さらに、彼は裕福でもないのに、2600ドラクマの代わりに39ムナ[3920ドラクマ]を支払うほど愚
かではありません。こうしたことに加え、彼がランピスに金を支払ったというちょうどそのとき、
ボスポラスにいた私の奴隷や仲間を証人として喚問しようとはしませんでした。再度申します
が、ランピスはフォルミオンに籠絡される以前、すなわち金を受け取る前までは、私のために
自ら証言しようという態度でした。
[42] さらに(注)、フォルミオンは自分の立場を逐一証明したつもりですが、それが最善の防御
になったようにはみえません。そうしたやり方も、法律が厳かに宣言しているように、容認され
ています。アテナイにおいて、あるいはアテナイ市場向けに結ばれた契約ばかりか、単にアテ
ナイにおいて結ばれ、あるいは単にアテナイへの航海を目的としたものもまた、商行為とされ
ています。
(注) 話者は、[フォルミオンの]異議申立てが認められそうにないとして、議論に進めているようにみえる。
話者は、フォルミオンの有罪を証明したと、基本的にみている。彼が、それを(すなわち提訴したこの法廷で)
明白に立証できなれば、それが彼の最良の防御になる。彼はそれができず、自分の訴訟が法廷に持ち込
む必要はないと主張して、異議申立てに頼り切っている。しかしながら、それが許されそうになく、また彼の
法廷に参加した経過からみて、防御にならなかったことを明らかになった。

法律を取り上げて下さい。
法律
[43] アテナイでフォルミオンと私のあいだで結ばれた契約を、私たちの敵対者である相手側も
否定していません。しかし、彼らはそれを容認しないと言い張って、異議申立てに参加していま
す。私たちは、陪審員の皆さん、あなた方がだめというなら、どこの法廷に持ち込めばいいの
でしょうか? 私たちが契約したのは、他でもなくここアテナイなのです。したがって、ある悪事が
アテナイ向けの航海に関わって私に向けられたわけですから、この法廷でフォルミオンから満
足のいく回答をうることなぞ、到底えられるものではありません。しかし、その契約があなた方
の市場で結ばれたというからには、彼らはあなた方の前でそれを行っていないと同じというべ
きです。
[44] 私たちがテオドトスにこの事件の調停を依頼したとき、彼らに対する私の行為は当然のこ
とと認めていました。しかし、いまでは、いままで認めていたこととはまったく違ったことをいって
います。異議申立てではなく、特権外国人テオドトスの前でいったことがよしんば妥当であった
としても、私たちがアテナイ人の裁判所に提訴したため、その言動はもはや容認されなくなりま
した。
[45] 私は自分に関しては、彼がこの世で異議申立てで述べたことを受入れようと努めてきまし
た。テオドトスが訴訟から降りてしまい、私たちに出廷するよう求めた後となった現在、彼が私
たちにあなた方の前に出向くよう求めていながら、彼はあなた方の前に持ち込める言動は何
一つないと言明しています(注)。確かに、私は大変、残酷な取り扱いを受けています。法律
は、アテナイで作成された契約に起因する、この種の訴訟は法務執政官テスモテタイ[注]に持
ち込むべきだと規定しているので、あなた方はその法律に従って決着をつけることを誓い、こ
の訴訟を棄却すべきです。
(注) 現状、フォルミオンが大変、横柄であるとしても、調停人が彼に肩入れしたことで、そうなったとはたし
ていえるだろうか?
[注] デモステネス弁論第33番1節(注)によれば、「法務執政官とは[9人の執政官(アルコン)のうち筆頭、
祭事、軍事担当の](エポニューモスおよびパレシウス、ポレマルコス以外の)6人の執政官で構成され、まっ
たく執政官がいないところで起きた事件に限って、裁判する権限を与えられた組織である」という。6人の立
法家ともいわれる。
[46] 私たちが金を貸したことは、合意書やフォルミオンによって証明されています。それが返
済されたかどうかは、この犯罪の共犯者であるランピス以外に証明するものは、誰もいませ
ん。フォルミオンはもっぱらランピスの証言でもって支払いを証明したと主張しますが、私はラ
ンピスと彼から金を受け取らなかったと聞された人々の証言を採用します。フォルミオンは私
の証人を告発できる立場にあり、彼らの証言が誤りであると彼が主張すれば、私には彼の証
人と論争する手段はありません。彼らはランピスが金を受け取ったと証言したことを知っている
というでしょう。ランピス自身の証言が法廷に持ち込まれれば(注1)、彼らは私に、彼を偽証の
かどで起訴すべきだと、恐らくいうはずです。しかし、そうだとしても、私は証言する機会はあり
ません。また、フォルミオンがあなた方に評決を請求しても、彼には有効な防御策があるので
無傷でいられるということになります(注2)。
(注1) 調停人が当面する事件は裁判所に送られるべきだと判断したとき、彼はその事件に影響するすべて
の事柄を2つのジャーか箱(例えばウニ)に閉じこめることになる。その1つは法廷で当事者の一方の側に付く
ことである。ただ、[調停人の]ある種の証言や、法律の引用、事実の認否は、法廷で採用される。
(注2) フォルミオンはランピスの証言に依存している。このような状況のもとで、私がランピスを偽証で告訴
することは不可能だとしても、フォルミオンは共謀罪で起訴されうる。その結果として、ランピスは罰せられず
に済むと期待している。
[47] フォルミオンは借りたと認め、また支払ったとも主張しています。あなた方が、彼が認める
ことのどちらを無効と判定し、また投票によって紛争している事柄に決着つけることが、はたし
て不合理といわれるのですか? 私の敵対者はランピスの証言を当てにしている、その彼が当
初、金を受け取ったことを否定していたが、その後になってそれとは正反対のことを証言する
ようになったとき、あなた方はそのことを支持する証言がないのに、それを受け取ったと断定す
るのですか?
[48] あなた方が、彼がもっともらしく陳述したことのすべてを虚偽とは受け取らず、また彼が買
収された後で語った虚偽を、信頼する価値があると判断するのですか? 本当のところはどうな
んでしょう、アテナイの皆さん、その後においてでっち上げられた言説ではなく、着手時に述べ
られた言説から結論を導き出すことの方が、はるかに理にかなっているはずです。前者は誠
実に作成され、隠された目的がないが、後者は彼の利益にかなうよう作られた虚偽となってい
るからです。
[49] アテナイの皆さん、思い出して下さい。ランピス自身でさえ、金を受け取らなかったといっ
たことを、一度も否定していないのです。彼は、そのように陳述したことを認めるものの、その
時、正常な心理状態でなかったと証言しています。しかし、あなた方が、彼の詐取の一味に好
都合な証言の大部分を信頼する価値があると判断し、だまし取られた一党を支持する証言は
信頼にたりないものとすることは、はたして馬鹿げたことでないといわれるのですか? 
[50] そうではありません。陪審員の皆さん、あなた方は、ある男は民会から告発されていなが
ら、あなた方の取引所で多額の追加融資を受け、そして債権者に担保を提供しなかったことを
とがめて、死刑を宣告した人々と、同じ人物です。なお、その男は市民であり、将官であったあ
る男の息子でした。
[51] こうした連中は、共同で事業をする人々に被害を与えるばかりでなく、あなた方の市場に
も被害をもたらすと受け取って頂きたい。そうした観点を持ち続けることが正しいことなので
す。交易に従事する人々に要求される資質は、借り手ではなく貸し手こそが備えるべきもので
す。あなた方が貸し手の果たしている貢献をないがしろにすれば、船も、船主も、乗客も、海に
乗り出すことができなくなります。
[52] 法律のもとで、それら[船、船主、乗客]を保護する多くの優れた規定があります。あなた
方が、自分たちの市場から最大限の利益を引き出すためには、あからさまな悪用から法律を
助け出すこと、また犯罪者には譲歩しないことを示すことが、あなた方の責務です。あなた方
が金銭を危険にさらしている人々を保護し、また悪漢に詐取されることを放置しないようにして
下さい。あなた方はそうするしかないはずです。

私はなし得る努力してしゃべりました。しかし、あなた方の指示があれば、別の私の友達を呼
び出す準備ができています。
(04/06/15記)

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